prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「叫びとささやき」

2007年12月12日 | 映画
いまさらながら、ベルイマンの遺したものの大きさを思う。
どれほど厳しく人間の苦しみや悩み、嫉妬やエゴを描いても、というより厳しいからこそ最後にカタルシスが顕れる、追い詰め方の厳しさ。

リブ・ウルマンを鏡の前に立たせた医者エルランド・ヨセフソンがかつて関係した彼女の顔の崩れを「批評」する、その批評が当たっているような気もするし、気のせいに過ぎないようにも思えるが、しかしウルマン自身は知らぬげに鏡の中の自分に見惚れている図を、鏡の中のアングルからじいっと捕らえ続けた、映像でなければありえないしかし映画演出一本ではとても出しきれないだろう演技の結合。
悪気のないまま周囲を傷つけ迷惑をかけても何とも思わない無意識過剰の末っ子を、正確に理解してしかも理解を顔に出さないで表現したウルマンの演技。

遺作「サラバンド」でも鳴ったバッハの無伴奏チェロ組曲第5番が、ここでもかりそめの姉妹の和解の軋みのように響く。

各場の前後をその場の主役の女の顔にフェイド・インフェイド・アウトするカットを置くのは、演劇をカーテンで区切る感覚であることに気づく。
部屋の壁も絨毯も真紅なのも有名だが、余談だがベルイマン演出の「ハムレット」の舞台でも、真紅はやはり舞台の随所に散りばめられていた。ガートルードが不倫の相手のクローディアスとファックする(露骨なパントマイム!)時に着ている衣装、ハムレットが母を責める場だけ舞台に敷かれる真紅のカーペット、狂いかけた水色の服のオフィーリアが履いた、それだけ真っ赤なハイヒール。赤は肉欲の色であり、水色は純粋さの色だった。
(☆☆☆☆)


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