prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ウルトラ・ダラー」 手嶋龍一・著

2006年03月05日 | Weblog


元NHKワシントン支局長・手嶋龍一氏の初の小説。

北朝鮮による偽札作りといたちごっこを演じている判別機メーカーが、本物の偽札(?)を証拠として確保しようとする各国の捜査機関に伍して手に入れないと判別技術が向上せず、メーカー間の競争に負けてしまう、といったディテールが生きている。
偽札作りの目的と、そのバックにある大国の老獪な外交ぶりなどは、小説でないと書けなかっただろう。

アメリカ・ドルがとっくの昔に金との兌換を止めているのに唯一の基軸通貨のように振舞うのは、利息抜きの国債みたいなものだという指摘には、そういえばそうだと思わせる。

あらゆる局面で秘密が要求される外交にあっては、辛うじて公電を残して30年後の歴史の審判を仰がなくては外交官たる資格はない、というのは「1991年日本の敗北」にも共通する視点。
実際、金丸信が訪朝した時の記録というのはどうなっているのか。どんな約束をしてのかわかっていなければ、外交にならない。

ロシアでエイゼンシュタインの映画「イワン雷帝」のリメークが進行中というのがもっともらしくて可笑しい。
映画のロケ地を訪れるというテレビ番組の企画で潜入をカムフラージュするのに、マルセル・カルネの「北ホテル」が使われているのは、洒落だろう。
あの映画で使われたホテルは、すべてセット撮影(美術 アレクサンドル・トローネル)によるものであることはかなり有名だからだ。

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「春が来れば」

2006年03月04日 | 映画
いったん挫折した男の再生と別れた女との出発、母親が息子にかけるプレッシャーではない希望、少年の夢と現実と父親との葛藤と愛情、ずっと年下の女性との友情、世界的斜陽産業としての炭鉱町のあり方、コンクールの対象ばかりでない音楽そのものの素晴らしさ、などなど、淡々とした中にずいぶん色々なモチーフが盛り込まれて、2時間超と長いが飽きさせない。
登場人物全員がイヤミでなく、いい人。

チェ・ミンシクが相変わらずむさくて情けない役を、ハード路線から一転して軽みを出して演じて大いに笑わせる。
舞台になる田舎町は有名なロケ地らしいが、雪の風景も海辺もいかにも韓国らしい。
(☆☆☆★★)

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「燃ゆるとき」

2006年03月03日 | 映画
アメリカのユニオンの悪どさにちょっとびっくり。実質的に乗っ取り屋の一味ではないか。
アメリカでは弁護士同様、本来トラブルがあった時の調整役が自分でトラブルを作ってマッチポンプ式に金儲けのネタにするようになっているということだろう。
ユニオンのオフィスがやたらと立派で、舞台になっているラーメン会社のオフィスよりよっぽど金がかかっている。

こうなると金儲けの手段としても不健康で、マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」ではないが、資本主義イコール手段を選ばぬ金儲けというわけではなく、相手も満足させると共に自分も儲ける、克己と相互互助の「商い」の精神というものが必須なはずと思ったりする。

今の日本がじわじわとアメリカ式資本主義日本に侵食されている時に、日本伝統の「家族的経営」(そんなの、こっちは経験した覚えはないが)のよさを示している感じ。甘いといえば甘いが、いい甘さだと思う。

中井貴一のスピーチは、そこまで持っていく段取りを含めてよくできていて感動的だが、日本語のわからないアメリカ人(というよりアメリカに来たメキシコ人)従業員まで感動しているのはちとヘン。

画面の美術的な厚みは今一つだが、演出の芝居のつかみ方はスクリーンのもの。
僻目か知らないが、「エクセレント・カンパニー」という言葉には手垢を感じる。

外国人俳優の役の書き込みとか演技が悪いわけではないのに、なぜか「日本映画の外国人」の型にはまってしまうのはなぜだろう。日本人俳優はそれぞれ勝手に芸達者を競っているのに。
(☆☆☆★)

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「イベリア~魂のフラメンコ」

2006年03月02日 | 映画
カルロス・サウラのフラメンコ映画の一作だが、作りはモダン・バレエに近い。

ストーリーはなく、スペインを代表する作曲家でピアニストだというイサーク・アルベニスの作品からインスパイアされたシーンが並ぶ。
堂々と撮影カメラが鏡に映るオープニングから、それぞれ全部コンセプトを変えていて、それぞれの装置はビデオを使ったり布やビニールの生の素材を生かしたりと、モダンアート調。撮り方のパターンも全部変えている工夫はたいしたものだが、正直スジがなくて叙景がずうっと並列されていくと、いかにダンスや演奏が見事で感心しながらも次第にダレてくる。
(☆☆☆)

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「アサルト13 要塞警察」

2006年03月01日 | 映画
同じ素材を使っていてもジョン・カーペンターのオリジナル「要塞警察」が包丁一本で仕上げたお造りなら、リメークのこちらは他にさまざまな素材をとりあわせてソースにも凝った一皿。

オリジナルだと警察を襲うのが不良少年(ほとんど無人格な昔の西部劇のインディアンみたい)だったが、ここでは悪党の帝王みたいなローレンス・フィッシュバーン(さすがに貫禄)と手を組んでいた腐敗警官たちが口封じに襲ってくるというのだから、敵味方の入り乱れ方にずっと厚みがある。

レーザー・サイト・ライフル、グレネード弾、閃光弾、などの他に原始的な棒や刀や火炎瓶まで取り揃えている武器の多彩さ。
二重の陽動作戦、人物のどんでん返し的扱い、名のある役者にはそれなりの役を割り振るなど、やるべきことはやっている。
襲ってくる警官のほとんどを顔が見えなくして、ばたばたやられるのを不思議でないようにしたのは、オリジナルの踏襲だろう。雪の中の闘いにしたのも、抽象的な印象を強くした。

酒と薬に逃げていたイーサン・ホークがそれを克服するのは、オリジナルのさらに元ネタの「リオ・ブラボー」の如し。ただ、克服するところで今ひとつ演出にアクセントがないのは残念。
リメイクというだけでなく、昔の手の生かし方がオタク的でなく、丹念な昔のB級作品の伝統的な作り。
(☆☆☆★★)

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