prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「叫びとささやき」

2015年09月19日 | 映画
監督は俳優から優れた演技を引き出す者である、という当たり前のことを改めて思い知らされる圧倒的なベルイマンの演出力。オープニングの癌による死が迫っているハリエット・アンデションの次女が目を開く、その瞬間だけでむしろ目を閉じている時に死を見つめているのがありありとわかる。

クロースアップの連続ともいえる映像構成の中で、リヴ・ウルマンの三女の顔に怠惰や傲慢が現れていると愛人の医者のエルランド・ヨセフソンが評する場面は、フレームの外を思い切り切り落とすことによってさまざまな外の意味を暗示を呼び込み、二人がのちに「ある結婚の風景」で夫婦役を演じているのや、ウルマンとベルイマンが同棲し一女をもうけるから見直すと、ヨセフソンを代理にしてウルマンという自分が愛した女について随筆的に評しているようにも受け取れる。

イングリッド・チューリンが愛していない夫とのセックスを拒絶するのにわざわざ割れたワイングラスの破片で性器を傷つけ、血を口のまわりに塗りつけるというシーンなど、よくこういうシーンを発想するし、描こうとするし、またそれに応えて演じようとするものだと畏れを覚える。

ベルイマンと俳優たちは夏は映画を撮り冬は芝居を上演しといった調子でずうっと一座を組んで活動してきたような形で活動していたわけで、芝居の練り上げ方の徹底ぶりがまるで違う。

ちなみに、ある映画祭でベルイマンとフェリーニという二大巨匠が連れだって何か話しているのでウルマンが聞き耳を立てたら、話題は女の悪口だったなんて話がある。

ベルイマンの同国人で先輩の劇作家であり相当程度同じ体質を持つアウグスト・ストリンドベルイの作品で「赤い部屋」という一種のファースがあるらしいが、ここでは文字通り赤い部屋が強烈なカラーで映し出され、シーンを区切るフェイドイン・フェイドアウトも赤を使っているのは有名だし、向上した画質で見る魅力にもなっている。

以前ベルイマンが演出した「ハムレット」の舞台でも赤がテーマカラーになっていて、赤い毛氈のようなカーペットを敷いた上にハムレットが母ガートルードを詰問する場面を設定したり、水色の衣装で統一したオフィーリアのハイヒールだけが赤だったりと、赤が情欲のテーマカラーになっているのは一貫している。しかもこれだけ極端な色分けをして図式性よりも生々しい肉感の方が先立っている。
(☆☆☆☆★)




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