prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ロッカーズ」

2003年10月30日 | 映画

ロック映画なのだが、なんと「アメージング・グレース」から始まる。村松剛「教養としてのキリスト教」によると、アメリカ映画「シルクウッド」でヒロインの死を暗示するのに使われた曲(本来、そういう意味が歌詞にあるという)だが、実はこの映画でもずっと後になって似た発想だったことがわかる。一般的な賛美歌でもあるから、意識したのかどうかわからないが、舞台が九州なのでキリスト教が染み込んでいるのかもと思わせる。

そこから一転、主役のバカバンドの奮闘が始まる。初め台詞が聞き取りにくく、演技メイク衣装その他、あまりにどぎつい誇張に鼻白んで白ける寸前までいって大丈夫かと思うが、主人公の一人・谷が出てくるあたりから調子が上がってくる。

福岡のテイストを入れたのが成功で、初めから格好つけてダサくなるより、照れず悪びれずにバカをやって時々キメる方向。主人公たちが人気が出てくるにつれ、カメラがぐるっと回転して客席を写すたびにどんどん客が増えてくるのを割らずにワンカットで通すところなど、どうやって撮ったかと思わせるし、映画演出を楽しんでいる感じ。

その客がまたエキストラを集めましたという感じでなくスタイルも決めているし本気でノッている。クライマックスのライブで、なぜ誰が優勝したか見てはっきりわかるように構成されており、恋人をあまり出さずライブに集中しきった処理もいい。

谷の目の病気とバイク好きの伏線をはってあるので、日本映画にありがちなぶち壊しものの突然な暗い展開になるのを救っている。そして教会で「アメージング・グレース」が流れる中を子供がギターを持って走り出す姿が主人公たちの走る姿にだぶるオープニングが、実は主人公の過去の出来事のように見えていたのを未来につながるものだったのがわかるラスト。「ひとりぼっちの青春」のに似て、その効果は逆で救いに向かう高度な技。

この監督・脚本コンビはつんくタウン短編集「東京ざんす☆」でピカ一だったが、俳優の長篇監督第一作でそう思われがちな、業界ノリと情熱で安手で未熟なのを乗り切るタイプとははっきり違う、作中の台詞でも強調していた“プロ”にこだわり成功した作り。

ラストの献辞で捧げられた人(原案・陣内孝則というから実際バンドで一緒だった故人か?)がどんな人なのか知りたくて公式HPを見るがわからず。flashにばかり凝っていて不親切。

突然「王様」が出てきてびっくり。いま何やってんだ?
(☆☆☆★★)


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