prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「シャッター アイランド」

2010年04月15日 | 映画
こういうとなんですけど、あれだけ早いうちからイメージやら回想やらが入り乱れて「頭の中を覗いてみましょう」をやっているのに、オチがどうって言ってもはじまらないのとちゃいまっか。宣伝に脳学者は起用するわ、本編前にいりもしない錯視画像みたいなもの見せるわで、日本側宣伝が出さなくていい馬脚出してるんだし。
で、手の内をさらした上で、リアリズムとは離陸した脳内世界を作ろうとしたのかと思いながら見たら、これがまるまる買いかぶり。

出だしが音楽といいカメラワークといい、やたらものものしい(背景の空まで作っているのがはっきりわかる)けれど、たかが女囚の脱獄あるいは失踪ですよ。そんな不可能性の高い脱獄やらかしているのかどうかもわからないし、島だから逃げられないとかいってまじめに捜索している様子もないしで、つかみとしたらずいぶん弱い。

で、展開は輪をかけて弱い。ナチスの収容所のシーンなど、何が本筋に関わるのかちゃんと売ってないし、後の方でもちゃんと買ってない。女の子ってところだけでなんとなくつなげるって、「シンドラーのリスト」のモノクロ画面に女の子の服だけ赤い色をつけて何事かを表現したようで何もしていないのと同じ轍を踏んでいる。

ナチスからスターリンから北朝鮮から赤狩りから洗脳について言葉としては大動員してるけど、そりゃあなた脳がどうこういうより理屈でつなげてるだけですよ。
ロボトミーの恐怖って、口で言われたってわかりません。脳をいじられてどう人間が変わるのか、「外からの」具体で見せないと。脳をいじられている人間の側から脳の働きが見えるわけないし。

何やらデヴィッド・リンチみたいな色調で描かれる奥さん絡みのイメージシーンとか、短時間で一気に銃殺する人数の記録を作ろうとしているみたいなアメリカ兵によるナチス虐殺とか、映像スタイルはバカみたいに凝っているのですけどね。

ディカプリオが強い光を見ると錯乱するという描写が前の方にあって、クライマックスの舞台が灯台とわかってからは、当然灯台の光がものを言うのだろうと思ったら、なんと点灯すらしない(だったら、なんで島に灯台があるんだ)。なんのために、嵐の中の車のヘッドライトをあんなにびかびか光らしてたの。暗闇の中のマッチの炎を強調したの。尻抜け。

C棟のセットが、平面だけでなく高さも生かした迷宮調で、「薔薇の名前」みたいと思ったら、果たせるかな同じプロダクション・デザイナーのダンテ・フェレッティ製。

音楽がリゲティやペンデレッキってねえ。音楽自体の値打ちは別として、「2001年宇宙の旅」や「エクソシスト」から何年経ってるのですか。

戸田奈津子が字幕と吹き替え両方の翻訳やるって、政治力の発動に思えてならない。
(☆☆☆)


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