prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「罪の声」

2020年11月14日 | 映画
特定の事件をもとにしているわけではないとエンドタイトルで断ってはいても、グリコ森永事件をモデルにしているのは明白で、以前キツネ目の男と疑われた宮崎学の自伝「突破者」の映画化が企てられたことがあったが、実現には至らなかった。

劇場型犯罪の嚆矢として犯人像は目立ちたがりで警察に悪意を持つ者としてイメージされたわけで、だからインテリヤクザの宮崎学が疑われたわけでもあるが、今回の真相も当たらずといえども遠からずのところ。

真相にたどり着くよりも、事件の巻き添えをくった市井の人々をかなり丹念に掬い取って描いているし、それが本来の新聞記者の役割ではないかという正論に着地する。

ただ、時代考証はしていても70年代の空気は出ていない。当時のことを直接知っているわけではないが、当時作られた映画に焼き付けられたものはわかるし、最近のドキュメンタリー「三島由紀夫と若者たち」で見る記録フィルムにも焼き付けられている。この国ではまっとうな怒りがおよそ受けつがれていないのだから、ムリもないが。

フィービー・ケイツやブルック・シールズが表紙の洋画雑誌「スクリーン」が時代色を出すのに使われているのが面白い。

それにしても元の事件が起きたのが1984年というのはオーウェルの「1984」と合わせたようでもある。同じ頃韓国では「1987 ある戦いの真実」で描かれたように軍事独裁政権を一点突破していた時なのだから、隣国とはいえ(隣国だからか)ずいぶん対照的といっていい道をたどってきたものだと思わせる。