prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「無人の野」

2006年10月28日 | 映画
ベトナム側からベトナム戦争を描いた、日本で公開されたものとしてはおそらく唯一の映画。

夫婦と赤ちゃん一人のベトナム人家族が、一面の水びたしの草原で生活しながらしょっちゅう飛来する米軍のヘリコプターの追跡と盲撃ちと無差別爆撃を撒き続ける姿を追う。

直接銃をとってドンパチしたり、米兵をひっかけるブービートラップを作ったりといった手はほとんど使わず、とにかくしぶとく赤ちゃんをビニール袋でくるんで水に潜り、藁をかぶって姿をくらまし、道にシートを敷いて足跡を消し、といった忍者みたいな調子で生活を続けること自体が、空振りを繰り返す米軍を一番疲弊させた、とありありと理解させる。

白黒画面によるリアリズムと詩情の共存が魅力的。
ホー・チ・ミンの教えを集団で復唱する場面などもあるが、イデオロギー色は表面的にはほとんど感じない。強いて言うなら本職の兵士が煮炊きをするのに煙をたてたのを敵に見つかると主人公に怒られ、割とすぐ反省するあたりは、それほど民族戦線の上層部って<民主的>だったのかいと思わせる。。
アクション・シーンのカットバックで、別撮りしたカットをつなげているのが丸わかりなのはご愛嬌。

一方で、米兵を演じているのがあからさまにベトナム人で、ベトナム語を喋っているのだからびっくりしてしまう。「ブラック・マジック・ウーマン」が流れる中、アメリカ風の格好をしたベトナム人がたむろしているパーティの場面など、画面だけ見ているとアメリカかぶれのベトナム版アプレゲールの宴としか見えない。

まあ、アメリカ映画は平気で有色人種は国籍無視でキャスティングして、どこの国の人間にも英語を話させてますからね。それをそっくりひっくり返して見るといかに本当は不自然かを教えている。
(☆☆☆★★)


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