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ロシアの検閲とイソップの言葉

2022-03-06 | ロシアコラム
ロシアの独立系メディアが次々と活動停止に追い込まれているなか、
2021年ノーベル平和賞を受賞したムラトフ氏が編集長を務める
「ノーヴァヤ・ガゼータ」も、ウクライナ侵攻に批判的な記事を削除し、
一時的にニュース報道を断念する、と3月4日に発表しました。

「国防省のプレスリリースと一致しないものは、フェイクとみなされ、
最高15年の懲役刑を科せられる可能性がある」というのがその理由です。



 いい知らせがあるとしたら
「平和」という言葉がまだ禁止されていないこと

(「ノーヴァヤ・ガゼータ」3月2日(水)22号より)

確かに、ウェブ版の「ノーヴァヤ・ガゼータ」には、
昨日(日本時間)まであったウクライナ関連の記事がありません。

この決定を下すにあたり、同紙は協賛者6427人に二択のアンケートを実施。
3月3日朝までの集計結果は以下のとおりです。

●戦時検閲の体制下で、当局の要求に従いつつ活動を続ける  93・9%
●特別軍事作戦が終了するまで編集活動を停止する 6・1%

これだけ見ると、当局に屈することをよしとしているかに思えますが、
これには続きがあります。削除されるのは時間の問題かもしれませんが、
同紙サイトには、協賛者(読者)の声が多数掲載されています。
その多くは「何があっても続けてほしい」「真実を知りたい」というもの。
なかでも目を引くのは、以下のようなコメントです。

「私たちにはイソップの言葉があります」
イソップの言葉で書き続けてください」
イソップの言葉ならみんなわかります」

これはほんの一部で、同じようなコメントが、実に多く見られます。

イソップの言葉(Эзопов язык)」とは、手元の辞書でひくと
「比喩や寓意の多い表現」とあります。

ロシア版ウィキペディアによれば、奴隷だったイソップが、動物になぞらえて領主を批判したイソップ寓話にちなみ、真実を巧みに隠した表現をイソップの言葉と呼ぶようになり、ロシア文学においては、帝政時代の18世紀末頃から、検閲を免れるためにイソップの言葉を使う伝統が育まれたとのこと。

先に挙げた「いい知らせがあるとしたら、平和という言葉がまだ禁止されていないこと」というコピーにも、暗に「戦争」「侵攻」など、事実を伝える言葉は禁止され、事態は悪くなるばかりだとの警告が読み取れます。とはいえ、スレスレの表現ですね。まだ削除されていませんが、イラストの下には、言葉を選んで即時停戦を呼びかけるメッセージも添えられています。

もともと文学的素養のあるロシア人は、帝政時代も革命期もソ連時代も、検疫下の出版物の行間を読むことで、真実を見極めてきたのでしょう。21世紀になってまで、イソップの言葉を使わなければならないのは不幸なことですが、もっと不幸なのは、イソップの言葉を使った報道さえメディアが自粛せざるを得ない状況に追いこまれているということです。
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