駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『変身』

2010年03月31日 | 観劇記/タイトルは行
 ル テアトル銀座、2010年3月19日ソワレ。

 グレゴール・ザムザ(森山未来)は布地のセールスマン。病身の父(永島敏行)に代わり、母(久世星佳)と妹グレタ(穂のか)を養うべく身を粉にして働いている。ある朝、不安な夢から目覚めてみると、グレゴールは自分が大きな虫に変身していることに気づく…原作/フランツ・カフカ、脚本・演出・美術・音楽/スティーブン・バーコフ、翻訳/川本子。全1幕。1969年ロンドン初演、92年日本初演の再演版。

 カフカが描く世界は21世紀のものであり、虫に変身して家族の厄介者になるグレゴール・ザムザは現代日本の「引きこもり」にも通じる…んだそうです。でも確かに、泣かされてしまった。
 確かにグレゴールは家族を背負わされて、ちょっと難儀していたのかもしれません。
 「ここではないどこかへ、逃げてしまいたい」くらい思ったかもしれない。
 それが彼を虫に変えてしまったのかもしれない。
 彼に頼りきった安住していた家族は、驚き、うろたえ、しかしやがて自分の足で歩き出します。顕著なのが妹のグレタです。彼女は新たな家長となり、父と母は再び安寧な夢に戻っていく。絶望に死んでしまったグレゴールを残して…
 現実って確かに続いていくものだから、そうしたものだと思います。グレゴールを見捨てないで、忘れないで、なかったことにしないで、と叫びたいけれど、それは彼が望んでいたことかもしれないし、では他にどうすればよかったんだと問われればその答えはない。
 だから、ただ、涙するしかない。
 そんな、しんどくもすばらしい舞台でした。

 私はふだんはストーリーラインがあるものとか、オチがあるもの、なんらかの主張やメッセージがあるものが好きで、「こういうことってあるよね」とただ提示するだけのようなものは好まないのですが…この舞台は、すごい、いい、と言わざるをえませんでした。
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