駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『帰ってきたマイ・ブラザー』

2023年04月13日 | 観劇記/タイトルか行
 世田谷パブリックシアター、2023年4月11日18時。

 神奈川県の浦賀、とあるホールのリハーサル室に伝説のグループ「ブラザー4」がやってきた。かつて大ヒット曲を放ちながら、あっという間に表舞台から消え去った4人兄弟のコーラスグループだ。4人が揃って顔を合わせるのは実に40年ぶり。たった2年半しか活動していなかった彼らの歌が、令和の時代にひょんなことからSNSで人気になっているらしい。再結成を望む熱烈なファンの声に後押しされ、当時のマネージャーだった中迫(寺脇康文)が奔走して、40年越しの復活コンサートが今夜、開かれることになったのだが…
 作/マギー、演出/小林顕作。「四兄弟・コーラスグループ・楽屋」というお題でプロデューサーから依頼されたという、シス・カンパニー公演。全1幕。

 リードボーカルで長男のハジメが水谷豊、バックコーラスの次男・信二が段田安則、三男・裕三が高橋克実、四男・四郎が堤真一、ファンの釈堂姉妹が峯村リエと池谷のぶえ。この座組と企画で勝ったも同然なほとんど卑怯な演目です(笑)。内容もホント出落ち感あるじゃないですか、イロイロありつつもコンサートが開催されるんでしょ、そんでその歌をフィナーレで歌っておしまいでしょ、って、そのとおりなワケです。そういう90分のライトでウェルメイドなワンシチュエーション・コメディでした。秀作。もう少しチケ代が安かったらベストだったかもしれません。まあでも豪華キャストだしデカいハコですしね。
 ただ『バンズ・ヴィジット』より私は満足度が高かったかもしれません…似て非なるものだろ、とはつっこまれそうですが。世田パブもまあまあ大きいハコだけど、そこまでがらんとした感じがない空間だし。こちらには政治的な要素はほぼありませんが、現代の世相を反映している部分はもちろんありますしね。ただ、4兄弟の40年にもっと何もなかったはずがないんだけれど、そこは深堀しない。そういう狙いの、シリアスにやり過ぎない、みんなが楽しく笑えてほっこりできる作品を目指したんだと思います。そして安い笑いが大嫌いな私ですら何度も吹いたし笑って、最後は気持ちよく手拍子しました。初めに演者が煽る手拍子が正拍で、でもこれ音楽的に裏打ちでいくところでしょ!?って思っていたらそのまま何故かそれが裏打ちに納まるというマジック…(笑)なんとステキなジャパネスク! さすがジャクソン5ならぬ若村4兄弟です。
 上手いのは、解散/復活コンサートに集まって帰ってきたのはコーラスグループ「ブラザー4」なんだけれど、作品タイトルは『帰ってきたマイ・ブラザー』で、バラバラに暮らしていた兄弟がまた集ったこと、がキモだという点です。確かに兄弟といえど年も違うし大人になっていけばそれぞれいろいろあって、もう親の葬儀でも法事でもなかなか一堂に会すことはない、不仲ということではないが何もかも胸襟開いて肝胆相照らす仲かと言われればそんなことはない方が自然なはずなのです。それが家族、それでも家族。会えばいろいろ思い出すこともある、そういう歴史がある。それでもきっちりとは揃わない振りはむしろそれが昔のままなのかもしれない、そんな程度のグループだったのかもしれない、だから熱心なファンも今やふたりだけなのかもしれない、でも、だからこそ、みんなファミリー。そういう意味ではこれは『ドリームガールズ』の日本版でもあるのかもしれません…!
 舞台が23年ぶりという水谷豊が、間が多少おかしかったかもしれないけれどそれでもこのお歳でこれだけきっちり台詞を入れてきていてさすがでしたし、ええかっこしいで突っ走っちゃってあとは弟たち任せののんきな長男っぽくてとてもよかったです。それを芸達者な周りがものの見事にフォローする。そして二役こなす女優ふたりがまさしく盤石で本当に卑怯(笑)。あと、プログラムを読むとみんな世代すぎて水谷豊のファンすぎる(笑)。私は女優ふたりの間の歳で世代としてはひとつ下だし幼いころあまりテレビドラマを見ない家庭に育ったため、『傷天』も『熱中時代』もタイトルしか知らず知識しかないのですが、こんなにみんなファンで共演することにキャッキャしちゃってておもろいなカワイイな、って感じでした。そういう雰囲気の良さがそのまま舞台に出ていたのかもしれません。こういうハッピーオーラも今の世知辛い世の中には沁みますね…また私が観た回では明らかにお子さんの観客がいて、ドリフのコントに笑うみたいにいい笑い声が客席に響いていて、それで周りが笑っちゃうのはダメだしイヤなんだけどそのギリギリの、いい空気が劇場にありました。
楽しい観劇でした。
 このあとは6月いっぱいまで全国行脚のようです。めっちゃ地方を回るわけではないけれど、テレビでも見る役者さんたち揃いだし、ライトな観客は嬉しいだろうなあ。そういう意味でもいい企画だなあと思いました。満足です。




 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宝塚歌劇星組『バレンシアの... | トップ | 『ブレイキング・ザ・コード』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルか行」カテゴリの最新記事