駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇雪組『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル/FROZEN HOLIDAY』

2024年02月06日 | 観劇記/タイトルは行
 東京宝塚劇場、2024年1月4日15時半、7日15時半、18日18時半(新公)、2月3日15時半。

 19世紀末のロンドンでは、新聞や雑誌が一般大衆向けの最大メディアであり、その販売部数を巡って各社は鎬を削り合っていた。医者でもあり作家でもあるアーサー・コナン・ドイル(彩風咲奈)はロンドン中心部から少し外れたアッパー・ウィンポール街で開業していたが、診察室には彼ひとり。今日もひとりも患者が来ないが、気にするふうでもなく熱心に机に向かい、原稿用紙に何やら書きつけている。そこへ妻ルイーザ(夢白あや)がやってくるが…
 作・演出/生田大和、作曲・編曲/斉藤恒芳、編曲/伊賀美樹子。名探偵シャーロック・ホームズの生みの親を主人公にした、オリジナルの「Happy“NEW”Musical」。

大劇場公演初日が後ろ倒しになり、新公もなくなって、12月だったこともあって仕事も忙しく遠征のチャンスがなく、東京待ちとなりました。今年の観劇始めがこの公演でした。
 が、以下、「どうにもNot For Me」だった、という感想です。
 駄作だとかトンチキだとか脚本・演出に不備があるとかもっとこうすればよかったのではとかいったことではなく、これはこれで良くできているんだろうけれど、私にはそのおもしろさがよくわからないままに終わってしまいました、というご報告のようなものです。大好きで高く評価しリピートしまくっている方々にはすみません…

 オフブロードウェイ作品を輸入上演しているような雰囲気を目指した、というようなことをどこかで生田先生が語っていた記憶があるのですが、ナンバーやステージング、アーサーの診療所のセットなど(装置/國包洋子)とてもお洒落で、そうした空気は確かに出せていた気がします。
 ただ、スターを見せる宝塚歌劇にとって生命線であるはずの、役の少なさが気になりました。そらハーバート(和希そら)がいる「ストランド・マガジン」編集部のメンツが、まなはる以下すわっち、はいちゃん、さんちゃん、聖海くんにねいろんで、それぞれ小芝居しているのかもしれませんがほぼモブで、郵便配達員のジョー(壮海はるま)の方が台詞が多いし目立つお役でいいんかいな…?というありさま(ここは新公メンツももったいなさすぎました…)。あすくん以下のバルフォア卿(華世京)ご一行も同様。娘役はねいろんですらアレなんだから妃華ちゃんもひまりも華純ちゃんもバイトしてるし、すわんちゃんや愛する愛空みなみちゃんもモブの中から可愛い!と見つけられるのでいいんだけれど、ただそれだけで芝居なんて全然観られないありさま。ホームズズにいろいろいるよ、たって要するにナンバーのアンサンブル・ダンサーみたいな扱いだし…仕方ないので私は心霊現象研究会の執事のエンリコとか観てキャッキャとかしてましたけど、それでいいんかいな…?という…
 あとは、アーサーに魅力を感じないのは私が咲ちゃんのことをスターとして特に好きでも嫌いでもないからかしらん…?とは思ったのですが、要するにこのお話を通した彼の悩みとか葛藤とか希望とか理想とかが私にはよくわからなかったので、何がドラマ、物語の焦点になっているのか捕まえきれず、単に舞台の進行を眺めているだけになってしまったのがおもしろく思えなかった敗因だったのだろう、と判断しています。
 作家が自分の人気作に振り回されるとか、望まれるものは書きたくなくて書きたいものは売れない、みたいな悩みとか、自分が作った登場人物なのにひとり歩きしていくようで怖いとか、それが実在の人物に思えてくる妄想が怖いとか…要素としてはよくあるものでわかりにくいことは何もないんだけれど、なんか観ていて「で? だから??」としか思えなかったんですよね…想像力がどうとか人生の主がどうとかも、このお話内での理屈が私にはさっぱりわかりませんでした。
 ホームズ(朝美絢)が言う「こっちに来ればいいのに」の「こっち」ってどこ? 創作世界ってこと? ルイーザは「殺せばいいのよ」とか創作のアイディアを出すようになったから「こっち」に来られて、でもアーサーが扮したモリアーティの代わりにホームズの手を取ってしまい、ともに滝に落ち、それで現実でも病に倒れた、ということ? 死ぬ直前に初めてルイーザはホームズの姿を見たような演技をしているようでしたが、創作の世界云々と人間の生き死にって関係なくない? あとなんでホームズにはルイーザを生き返らせる力があるの? あとアーサーは作家なのに一番大事なものが妻でいいの? もちろん家族、家庭、愛する人があってこその「それでも物語が必要だ」という結論、という物語なのかもしれませんが、そんなお話になっていました…???
(あとホームズ登場のナンバーの「♪なぜなら君が書いたから!」のメロディは何故あんな音階なの? 標準語の「書いたから」と全然違う音の上げ下げで、まったく「書いたから」と聞き取れないんですけど…「『炊いたから』? 『湧いたから』?? なわきゃないよな…」とかずっと考えていたんですけど…こういうの、作曲の基本なんじゃないの? なにげにこの点が一番嫌だったかもしれません…)
 なので私にとっては夢白ちゃんの可愛いドレス姿をずっと眺めているだけの作品になりました…お衣装、ホントどれも可愛かったなあぁ!(衣装/加藤真美)男役のスーツもよかったし、ホームズの衣装にもアイディアがあったし、ここは満足でした。

 咲ちゃんはホントにスタイルが良くてスーツ姿がお洒落で、素敵でした。ただ私にはアーサーのキャラクターや魅力がよくわからず、コメディだからかもしれないけれど一本調子な演技に見えて、やや残念でした。このあとは『ベルばら』で、それで卒業なんですものね…オリジナルを書いてもらえたというのは貴重なことなので、これが代表作となるのでしょうか。あとは『ボニクラ』が再演されていくのなら初代クライドよかったよねえぇ、となるのかもしれませんが…うぅーむ、雪組の御曹司がどうにも作品に恵まれないまま卒業していくことになりそうなのは、悔しいなあぁ…斎藤一とか、好きだったなあぁ……
 夢白ちゃんは華とパワーと押し出しと絶妙な脳天気さと賢さで良きヒロインっぷりを務めていて、素晴らしいと思いました。
 あーさもホント華と押し出しがあって、こういうお役には最適ですね。真ん中で白い役ばかりやるようになったら、おとなしくなっちゃうのかしらん…?
 そらは…ご卒業を重ねるような台詞も書いてもらっていて泣くしかないのだけれど…やはり役不足でしょうね。外部でのご活躍を今からお祈りしています。
 そしてあがちんもこういうお役ばっかりでいいの?とは思いますが、絶妙な愛嬌で微妙にへっぽこな役を上手くやっていて、これはこれで力量が要ることよ…と感心しました。
 あとは誰か印象に残ったかなあぁ…? ううーん…

 東京新公が観られたので、以下簡単に感想を。
 担当は菅谷元先生。下手ブロック通路側に生田先生と並んでご観劇で、拍手も手拍子もしてらして、好感持てました。何度か新公を担当しているのを観ているので、そろそろバウ・デビューかしらん? 期待していますね!
 脚本・演出とも新公用の大きな変更などはナシ。生徒も本役に準じて懸命に務めているように見えました。なのでやはりあまりおもしろくはなかったかな…
 かせきょーくらいならもっと全然違うアーサー像にしちゃってもよかったのでは、そうしたら私も目が覚めてこの作品のおもしろさがわかるのでは…とか密かに期待していたのですが、カテコの挨拶でもありましたがものすごく苦労して真似て一生懸命にコメディをやろうとしていたようですね。イヤ下級生にはそもそもコメディってホント難しいんだと思うんだけど、ましてニンに合わないお役ではねえ…まあ勉強にはなり、血肉となっているはずだ、と前向きに考えましょうか。でもやはり拙さが目立って見えた気がしました。華がある逸材だと思うので、上手く育ててほしいなー…
 ルイーザは星沢ありさちゃん。前の公演だったか、ロケットでも可愛くて組ファンには有名だったそうですが、こんな抜擢するんだったら今回もせめて雑誌売り少年(愛羽あやね)にするとか、本公演でも起用してくださいよ…それはともかく、アイメイクがなんかヘンじゃなかったですか? なので肝心の美貌が生きていなかった気がしました。まだ笑顔が1種類しかないし、歌もまだまだ肺や腹筋がで来ていない感じで…まのんたんやひよりんのときのような爆誕感はなかったかな。これまた上手く育ててほしいです。そしてこの役のすっとんきょうなパワーは夢白ちゃんの持ち味あってのものだったんだな、と痛感…
 ホームズは聖海くん、毎度手堅い。でもこれも、この役のあの謎の押し出しはあーさの華あってのものだったのか、と…まあ本公演は当て書きですからね。
 逆にハーバートの壮海くんは妙な圧があって濃くておもしろかったです。爪痕を残したのではないでしょうか。
 ミロ・デ・メイヤー教授(縣千)の紀城くんもよかった! 今ひとつ地味になりがちな若手スターさんかと思っているのですが、勢いで押し切らず、ていねいに演技してちゃんとキャラを立てている感じが好感持てました。
 ねいろんのところが華純ちゃん、綺麗だったけどしどころがないよね…妃華ちゃんのところのみちちゃんがさすが達者。ひまりのところの白綺華ちゃんも可愛かったけれど、華純ちゃんのところの瑞季せれなちゃんがちょっと背が高くてちょっと変わった美人で、印象に残りました。
 エステル・ロバーツ(沙羅アンナ)の愛羽あやねちゃんも圧があってよかったです。
 ホームズズではおそらく瞳月りくくんがスタイルが良くて光って見えました。アリス(有栖姫華)の愛空みなみたんも可愛かったよー! まあ贔屓目です、いつも歌要員なんだよなー。芝居が観たいよー、もっと起用してくれよー!
 

 ショーは作・演出/野口幸作。「Winter Spectacular」がショルダータイトル、サブタイトルは「Snoe Troup 100th Anniversary」。
 季節ものとしては完全に外して観ましたが、まあ外してもクリスマスもお正月もみんな大好きでワクテカするものだし(ちなみに私は大晦日が好きです)、後半の場面も華やかで楽しく、いいレビューだったのではないでしょうか。
 プロローグとダンス・エキシビジョン場面は同じことをやっているような気がしたので(同じグループ分けで出てきてまた繰り返すので)、ちょっと長いなーと思いましたが、まあ主要メンバーをじっくり観るにはいい時間なのかもしれません。てかそのあとのあーさサンタから始まる場面って、ホテルの劇場で上演されるレビュー、という劇中劇設定だったの…? 今ちゃんとプログラム読んで、初めて知りましたよ…ここもやはりグループ分けが同じで繰り返しなんだけれど、そのまま中詰めになだれ込む勢いがあるので、まあ楽しいっちゃ楽しいです。
 そらの素晴らしい餞別場面があり、新年へ。なんちゃってジャポネスクなお衣装も素敵ですね(衣装はこちらも加藤真美)。
 そしてワイルドホーン楽曲に乗って、雪の花が100年ぶりに咲く場面へ。なんと花の中に立つスノー・スターがエンリコ…! ねいろんでもかせきょーでもなくエンリコ…! 震えましたね。しかしもう少し振りを付けてやらんかい、ずっと両腕をYの時に掲げてニコニコしてるだけとか、つらいだろうに…! しかし私は彼の華を買っているのです、期待大。
 鏡を使ったマスゲームチックな場面は、野口先生の大好きなMGMふうですね。宝塚歌劇なのに出演者のスター性を無視していること(群舞、なんなら腕と脚しか求められていないので)、そして白タイツでやらせる必要があったのか、という問題はあったかもしれません…
 そして私でも知っている「WHITE BREATH」、野口レビュー恒例のアイドル場面ですが、あーさ以下ってさすがに人数多すぎでは…!? もちろん全員観きれず終わりましたが、銀橋最上手のエンリコが大物感出していて良きでした。
 そしてフィナーレへ。トリプル・デュエダンみたいだった構成がいつしか咲ちゃんとそらだけになり、咲ちゃんが0番をそらに譲って一節ともに踊るくだりがあり…いやぁもう頬も削げちゃってすっかり痩せちゃって、なのに全身が発光していて、どうして卒業間際のジェンヌってあんなにも美しいんでしょうね…!? さすがにうるうるしました。
 パレード、エトワールはプロローグでクック・ボーイ&ガールだった紀城くんかせきょーねいろん華純ちゃん。ダブルトリオ上手の男役はエンリコ。真っ白な雪の女王のような夢白ちゃんの美しさが絶品でした。
 ひまりがどこでもいつもとても素敵だったこと、愛空みなみチェックの腕が上がって、肩や二の腕で、付けまつげだけで判別できるようになったことを特筆しておきます…(笑)いやーほぼほぼ娘役群舞の長で衣装取っ替え引っ替え引っ込んでは出てくるので、真ん中観てる暇なんかありませんでしたよ…! はーカワイイ。白いおぼうぼも赤いドレスも、ジャポネスクもロケットもお似合いでしたー! バウとかでちょっといいお役をつけてくれー…!!

 いちかくんは全休しているし、野口先生にもパワハラ・セクハラ疑惑の報道があったはずだけれど完スルーだし、いろいろと気がかりなことはあるわけですが…外部含めてホントいろいろありすぎだし、いい機会というのもなんですがホントここで変えなきゃまたズブズブのグダクダなんだから、なんとかがんばって抜本的な改革を望みたいところです。いちいち全部を報告しなくていい、けれどファンをたまには安心させてください。頼みますよ劇団…
 それでも次は疑惑のイケコの新作の幕が上がるわけだけれどもね…『M!』ももうホント他の演出家でいいと思うんですよ、違うパターンをファンも観たがっていると思うのよ…! 東宝含めて、ホントちゃんとしてください、頼みます!!








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