IHIステージアラウンド東京、2023年3月16日12時(前編)。
大いなる脅威「シン」に人々が怯えて暮らす、死の螺旋に囚われた世界スピラ。「眠らない街」ザマルカンドで水中競技ブリッツボール選手として活躍する少年ティーダ(尾上菊之助)は、ある日突然スピラに迷い込み、可憐で気丈な召喚士ユウナ(中村米吉)と出会う。ユウナの目的はただひとつ、シンを倒すこと、そのための究極召喚を手に入れること。ユウナの決意に胸を打たれたティーダは、ユウナを援護する「ガード」と呼ばれる仲間たちと旅に出るが…
企画・構成/尾上菊之助、脚本/八津弘幸、補綴/今井豊茂、演出/金谷かほり、尾上菊之助、美術/堀尾幸男。2001年に「ファイナルファンタジー」シリーズの第10弾として発売された不朽の名作ゲームを新作歌舞伎化。全四幕(休憩二回)。
ゲームファンで歌舞伎ファンのお友達が発表時から盛り上がっていて、うきうきと配役予想をし、それが発表されてからもるんるんで観劇計画を立てていたのを横目に眺めつつ、『禺伝』のときにも言いましたがゲームと名のつくものをほぼいっさいやらない私は、気にはなるけど今回はスルーだよな…と静観していました。が、蓋を開けたら楽しげな評判が聞こえてくるし、チケットはまだあるというし、ステアラも未だ行けていないのでなくなる前にぐるぐるしとくべきでは…?みたいな言い訳をしつつ、とりあえず前編だけチケットを取ってみました。ナウシカ歌舞伎のときは原作ファンなので当然のごとく通しで取りましたが、今回はなんせアウェイだし、席を選んで取れるチケットweb松竹が通しで割り引きになるチケットを販売していなかったので、ならまずは前編だけでいいや、とA席どセンターをセレクトし、もらったチラシのあらすじや人物相関図を眺めて予習し、臨んでみたのでした。
ちなみに都の北西に暮らす身としては豊洲マンハッタンはそれこそほとんど異世界で、ゆりかもめとかは物見遊山で乗れて楽しかったです。あとは偏見で、劇場の周りなんて何もないんでしょ単なる吹きっさらしなんでしょ?と思って行ったら、周辺にベンチその他がたっぷり用意されていて、キッチンカーか出ていてフードコートテントが設えられていて、通しで観ても大休憩も安心、な環境になっていてたいそう感心しました。てか日傘が要るピーカンすぎましたよ…!
劇場も、トイレも綺麗で数があるし、ロビーの物販もスムーズで、とてもいい感じでした。いそいそと入場すると、平日ということもあるのでしょうが残念ながらS席後方が埋まっていなくて、私が取ったA席前方は何故か前も隣も人が来なくて、とても快適でした。劇場は前方が半円の映像スクリーン仕様になっているので、前方席だと没入感もあるでしょうが、後方席はその映像が引いて一望できるので、個人的にはオススメだなと思いました。ホラ、チケ代お高いからさ…席種選びのご参考に。
前説で客席に、初歌舞伎の人、FFノー履修の人、とそれぞれ挙手させていましたが、どちらもまあまあいました。それがまさしく「勇気を出して」こうして集ったことは確かに素敵なことですし、それは意気に感じて多少空席があっても役者さんたちもがんばってくれたのではないかしらん…と思ったりもしました。
でも、実は、最初の休憩くらいまでは私はやや退屈しました。おもしろかったら後編も続けて観よう、当日券が買えるよね…とか考えていたのですが、ううむコレは要らないかな、となっちゃったんですよね。なんか、誰かが出てきては、ゲームの立ち絵っぽいポーズして、歌舞伎の七五調で人物紹介の口上をして、周りとちょっとやりとりがあって、そうしたらまたぐるぐるして映像が動いて、また中央が開いて舞台になって、そこに次の誰かが現れて、また口上して…ってのの単なる連続に思えたのです。ティーダに説明する形で解説がされるので、FFノー知識でも話はわかるのですが、しかしおもしろく感じられないわけです。まあこういうのってパーティーが揃うまでは単調なものかもしれませんが、それにしても…という感じ。黒子を使ったブリッツボールの試合の演出とか召還獣との戦いとか、おもしろくて見どころはあったんですけれど、そういうのって単なる事件、エピソードにすぎなくて、とにかくドラマがない気がしたんですね。ゲームを知っている人は「あのゲーム画面が三次元でこんなふうに!」という驚きや喜びがあると思うし、音楽なんかに関してもそうなんだと思うんですけれど、私はそういうことでは喜べないので、なんかよくわからないコスプレにしか見えないし、脚本も単調で、なんかヌルい2.5次元舞台みたいだなオイ…とかちょっと思ってしまったのでした。よくよく考えると、ワッカ(中村橋之助)、ルールー(中村梅枝)が出たきときにすぐチャップの話をしてくれていたら、私はドラマを感じておもしろく思ったかもしれません。
なので、俄然おもしろくなったのは、遠目には初音ミクにしか見えなかった(笑)シーモア(尾上松也)が登場したあたりからでした。というかグアド族と人間のハーフ、とされているのですが、この世界に人間、ヒト、ホモサピエンスっているんだ?ってのがちょっとおもしろくなっちゃったし(そもそもこの世界の人型の人たちって雌雄で番って子供が生まれるの? 恒温なの? 酸素吸って二酸化炭素吐いてるの? ものを食べて消化してエネルギーにしてるの? へえぇ…とか、SF者の血が騒ぎましたよね)、人間なのはお母さんの方で本人の見た目は父親そっくりなのにそれでも何かしらの差別なり迫害なりがあったような設定らしいし、かつ父親と疎遠というか、母親とセットで幽閉されるようなくだりがあって、おおぉどういうことなんだ?とドラマを感じたのです。ティーダは途中で姿を消してしまったらしい?父親に対し屈託があり、対してユウナは父を尊敬していて彼のあとを追って召還士になったようなのですが、そこにさらに第三の形の父子が持ち込まれ、しかもなんか闇堕ちの気配が漂い出して、何このダブル、いやトリプル『スターウォーズ』みたいなの…!?と私はワクテカし始めたのでした。父と息子、みたいなものには本当はそんなに萌えはないんですけれど、やはりドラマって人間関係とそこからの心の動きだと思うので。そうしたらそこからさらに、民心の平和のための政略結婚、みたいな話になって、ヤダ三角関係展開…!?とラブストーリー好きの私はますますときめき、テンションが上がったのでした。
結局、スピラの人々が信仰するエボン教なるものの教えの解釈に疑義があるとか、そもそもシンの正体ってなんなんだとか、人類の昔の贖罪を今してるってどうなんだとか、ティーダは千年をタイムスリップしてきたということなのかとか、科学技術批判とか、なんかいろいろが絡んできて盛り上がってきて、で、「後編に続く!!!」とキメて終わった前編でした。でもそれが妙にカッコよかったので、私はそれで十分満足してしまいました。その前のこれでもか、という立ち廻りも圧巻でしたしね。
なので後編については、このあと通しで観るそのくわしいお友達にあとでいろいろ解説してもらえばいいや、とは思っちゃったんですけれど、素人としては前編のみでも十分楽しんで、ご機嫌で帰宅しました。聞けば後編の方がより歌舞伎っぽいという話なので、もしかしたらどこかで後編も観に行っちゃうかもしれませんが…
いやしかしティーダは本当に少年に見えたし(また上手く若い声に作っていましたよねえ!)、ユウナもルールーもリュック(上村吉太朗)もどういうことなのまったく男声じゃないんですけどどういう声帯なの!? 米吉さんは普段はおしゃべりで圧の強いお兄さんなのになんであんなにヒロイン力があるの!? 歌舞伎役者って本当にスゴイ! 怖い!! と思ったのでした。
ユウナがティーダを「きみ」と呼ぶことはゲーム準拠だそうで、これもお友達が言っていましたが、このゲームシリーズは古いわりにはあまり男女差別がないように感じられる、とのこと。男子が同年配の女子にすぐ「おまえ」と言ってもそれはその男子が乱暴者キャラであるということを必ずしも意味しないことも多いのに、女子がその逆をやるととたんに不穏になるところに、ジェンダー非対称があります。「あんた」でもいいけど、やはりそれを言う女子のキャラにある種の色をつけてしまう。ティーダとユウナの距離感からして(のちに縮まっていくのかもしれませんが)、この互いに「きみ」と呼びかけ合う関係性はとても素敵に思えました。ちゃんとお互い尊重し合っている感じがしたし、別にユウナが偉そうって感じもなかった。このいい感じの姫感、ヒロイン感が素晴らしかったと思いました。思えば『ハイロー』のカナの「きみ」はやや微妙だったと私は思うよ…それは現代日本人女性で異性にこの二人称を使う人は現実にはほぼいない、という事実があるからでしょう。せめて異世界でくらい、対等であってほしいものです…まあそれでいうと歌舞伎役者は男性のみという、究極の非対称があるんですけれどね。
でも本当に、歌舞伎って今でこそ伝統芸能でございって祭り上げられているけれど、本当は庶民の娯楽で気軽なエンタメで、三面記事とかをすぐ芝居にしちゃうようなところがあったわけで、だからこういうゲームだの漫画だのの流行りものを取り入れるのも当然なんですよね。物語として、エンタメとしてしっかりしているものであればあるほど、意外と相性がいい。そして菊之助さんはただ歌舞伎役者が扮するコスプレ2.5次元舞台にするのではなく、ちゃんと歌舞伎にしてくる。ツケを入れて見得を切る、ぶっ返りがあり立ち廻りがある、黒子が働く…歌舞伎の約束事や様式美は大事にして、でも懐深く、ビジネス的な企画ではなく「人の心を動かし、喜ばれるものを作りたい、届けたい」という想いからのスタート…というのがまた素敵だな、と思いました。今回はコロナ禍のステイホーム期間に久々にゲームをやって感動したから、というのがきっかけだったというのも、本当にいい話ですよね。三年で形になるのは新作歌舞伎としては早い方だそうですが、FF側も嬉しくて意気に感じて、完全協力してくれたからの結果でしょう。
プログラムの挨拶文やあらすじの一部に英訳があるのもいいなと思いました。全世界で愛されているゲームだというし、それが歌舞伎とドッキングとなれば喜んで観たがる海外のお客さんもいそうですもんね。いい気配りだなと思いました。
そしてこのぐるぐる劇場との相性もとても良かったのではないかと思いました。よく考えられて、上手く演出されていたと思いました。なくなる前に来られてよかったです。
座席に着いていたシートマットみたいなのは今回仕様なのかな? 通しで観ても腰もお尻もまったく痛くならないと評判ですが、本当に快適でした。
客層は本当に老若男女幅広く、みんな楽しげでよかったです。気になって手を束ねている人に、もっと届くといいなと願っています。人々はもっと広がって重なって、交流して交錯して、より豊かになっていけるといい。私もその中でじゃぶじゃぶと遊びたゆたっていきたいな、と改めて思いました。良き体験ができました。
大いなる脅威「シン」に人々が怯えて暮らす、死の螺旋に囚われた世界スピラ。「眠らない街」ザマルカンドで水中競技ブリッツボール選手として活躍する少年ティーダ(尾上菊之助)は、ある日突然スピラに迷い込み、可憐で気丈な召喚士ユウナ(中村米吉)と出会う。ユウナの目的はただひとつ、シンを倒すこと、そのための究極召喚を手に入れること。ユウナの決意に胸を打たれたティーダは、ユウナを援護する「ガード」と呼ばれる仲間たちと旅に出るが…
企画・構成/尾上菊之助、脚本/八津弘幸、補綴/今井豊茂、演出/金谷かほり、尾上菊之助、美術/堀尾幸男。2001年に「ファイナルファンタジー」シリーズの第10弾として発売された不朽の名作ゲームを新作歌舞伎化。全四幕(休憩二回)。
ゲームファンで歌舞伎ファンのお友達が発表時から盛り上がっていて、うきうきと配役予想をし、それが発表されてからもるんるんで観劇計画を立てていたのを横目に眺めつつ、『禺伝』のときにも言いましたがゲームと名のつくものをほぼいっさいやらない私は、気にはなるけど今回はスルーだよな…と静観していました。が、蓋を開けたら楽しげな評判が聞こえてくるし、チケットはまだあるというし、ステアラも未だ行けていないのでなくなる前にぐるぐるしとくべきでは…?みたいな言い訳をしつつ、とりあえず前編だけチケットを取ってみました。ナウシカ歌舞伎のときは原作ファンなので当然のごとく通しで取りましたが、今回はなんせアウェイだし、席を選んで取れるチケットweb松竹が通しで割り引きになるチケットを販売していなかったので、ならまずは前編だけでいいや、とA席どセンターをセレクトし、もらったチラシのあらすじや人物相関図を眺めて予習し、臨んでみたのでした。
ちなみに都の北西に暮らす身としては豊洲マンハッタンはそれこそほとんど異世界で、ゆりかもめとかは物見遊山で乗れて楽しかったです。あとは偏見で、劇場の周りなんて何もないんでしょ単なる吹きっさらしなんでしょ?と思って行ったら、周辺にベンチその他がたっぷり用意されていて、キッチンカーか出ていてフードコートテントが設えられていて、通しで観ても大休憩も安心、な環境になっていてたいそう感心しました。てか日傘が要るピーカンすぎましたよ…!
劇場も、トイレも綺麗で数があるし、ロビーの物販もスムーズで、とてもいい感じでした。いそいそと入場すると、平日ということもあるのでしょうが残念ながらS席後方が埋まっていなくて、私が取ったA席前方は何故か前も隣も人が来なくて、とても快適でした。劇場は前方が半円の映像スクリーン仕様になっているので、前方席だと没入感もあるでしょうが、後方席はその映像が引いて一望できるので、個人的にはオススメだなと思いました。ホラ、チケ代お高いからさ…席種選びのご参考に。
前説で客席に、初歌舞伎の人、FFノー履修の人、とそれぞれ挙手させていましたが、どちらもまあまあいました。それがまさしく「勇気を出して」こうして集ったことは確かに素敵なことですし、それは意気に感じて多少空席があっても役者さんたちもがんばってくれたのではないかしらん…と思ったりもしました。
でも、実は、最初の休憩くらいまでは私はやや退屈しました。おもしろかったら後編も続けて観よう、当日券が買えるよね…とか考えていたのですが、ううむコレは要らないかな、となっちゃったんですよね。なんか、誰かが出てきては、ゲームの立ち絵っぽいポーズして、歌舞伎の七五調で人物紹介の口上をして、周りとちょっとやりとりがあって、そうしたらまたぐるぐるして映像が動いて、また中央が開いて舞台になって、そこに次の誰かが現れて、また口上して…ってのの単なる連続に思えたのです。ティーダに説明する形で解説がされるので、FFノー知識でも話はわかるのですが、しかしおもしろく感じられないわけです。まあこういうのってパーティーが揃うまでは単調なものかもしれませんが、それにしても…という感じ。黒子を使ったブリッツボールの試合の演出とか召還獣との戦いとか、おもしろくて見どころはあったんですけれど、そういうのって単なる事件、エピソードにすぎなくて、とにかくドラマがない気がしたんですね。ゲームを知っている人は「あのゲーム画面が三次元でこんなふうに!」という驚きや喜びがあると思うし、音楽なんかに関してもそうなんだと思うんですけれど、私はそういうことでは喜べないので、なんかよくわからないコスプレにしか見えないし、脚本も単調で、なんかヌルい2.5次元舞台みたいだなオイ…とかちょっと思ってしまったのでした。よくよく考えると、ワッカ(中村橋之助)、ルールー(中村梅枝)が出たきときにすぐチャップの話をしてくれていたら、私はドラマを感じておもしろく思ったかもしれません。
なので、俄然おもしろくなったのは、遠目には初音ミクにしか見えなかった(笑)シーモア(尾上松也)が登場したあたりからでした。というかグアド族と人間のハーフ、とされているのですが、この世界に人間、ヒト、ホモサピエンスっているんだ?ってのがちょっとおもしろくなっちゃったし(そもそもこの世界の人型の人たちって雌雄で番って子供が生まれるの? 恒温なの? 酸素吸って二酸化炭素吐いてるの? ものを食べて消化してエネルギーにしてるの? へえぇ…とか、SF者の血が騒ぎましたよね)、人間なのはお母さんの方で本人の見た目は父親そっくりなのにそれでも何かしらの差別なり迫害なりがあったような設定らしいし、かつ父親と疎遠というか、母親とセットで幽閉されるようなくだりがあって、おおぉどういうことなんだ?とドラマを感じたのです。ティーダは途中で姿を消してしまったらしい?父親に対し屈託があり、対してユウナは父を尊敬していて彼のあとを追って召還士になったようなのですが、そこにさらに第三の形の父子が持ち込まれ、しかもなんか闇堕ちの気配が漂い出して、何このダブル、いやトリプル『スターウォーズ』みたいなの…!?と私はワクテカし始めたのでした。父と息子、みたいなものには本当はそんなに萌えはないんですけれど、やはりドラマって人間関係とそこからの心の動きだと思うので。そうしたらそこからさらに、民心の平和のための政略結婚、みたいな話になって、ヤダ三角関係展開…!?とラブストーリー好きの私はますますときめき、テンションが上がったのでした。
結局、スピラの人々が信仰するエボン教なるものの教えの解釈に疑義があるとか、そもそもシンの正体ってなんなんだとか、人類の昔の贖罪を今してるってどうなんだとか、ティーダは千年をタイムスリップしてきたということなのかとか、科学技術批判とか、なんかいろいろが絡んできて盛り上がってきて、で、「後編に続く!!!」とキメて終わった前編でした。でもそれが妙にカッコよかったので、私はそれで十分満足してしまいました。その前のこれでもか、という立ち廻りも圧巻でしたしね。
なので後編については、このあと通しで観るそのくわしいお友達にあとでいろいろ解説してもらえばいいや、とは思っちゃったんですけれど、素人としては前編のみでも十分楽しんで、ご機嫌で帰宅しました。聞けば後編の方がより歌舞伎っぽいという話なので、もしかしたらどこかで後編も観に行っちゃうかもしれませんが…
いやしかしティーダは本当に少年に見えたし(また上手く若い声に作っていましたよねえ!)、ユウナもルールーもリュック(上村吉太朗)もどういうことなのまったく男声じゃないんですけどどういう声帯なの!? 米吉さんは普段はおしゃべりで圧の強いお兄さんなのになんであんなにヒロイン力があるの!? 歌舞伎役者って本当にスゴイ! 怖い!! と思ったのでした。
ユウナがティーダを「きみ」と呼ぶことはゲーム準拠だそうで、これもお友達が言っていましたが、このゲームシリーズは古いわりにはあまり男女差別がないように感じられる、とのこと。男子が同年配の女子にすぐ「おまえ」と言ってもそれはその男子が乱暴者キャラであるということを必ずしも意味しないことも多いのに、女子がその逆をやるととたんに不穏になるところに、ジェンダー非対称があります。「あんた」でもいいけど、やはりそれを言う女子のキャラにある種の色をつけてしまう。ティーダとユウナの距離感からして(のちに縮まっていくのかもしれませんが)、この互いに「きみ」と呼びかけ合う関係性はとても素敵に思えました。ちゃんとお互い尊重し合っている感じがしたし、別にユウナが偉そうって感じもなかった。このいい感じの姫感、ヒロイン感が素晴らしかったと思いました。思えば『ハイロー』のカナの「きみ」はやや微妙だったと私は思うよ…それは現代日本人女性で異性にこの二人称を使う人は現実にはほぼいない、という事実があるからでしょう。せめて異世界でくらい、対等であってほしいものです…まあそれでいうと歌舞伎役者は男性のみという、究極の非対称があるんですけれどね。
でも本当に、歌舞伎って今でこそ伝統芸能でございって祭り上げられているけれど、本当は庶民の娯楽で気軽なエンタメで、三面記事とかをすぐ芝居にしちゃうようなところがあったわけで、だからこういうゲームだの漫画だのの流行りものを取り入れるのも当然なんですよね。物語として、エンタメとしてしっかりしているものであればあるほど、意外と相性がいい。そして菊之助さんはただ歌舞伎役者が扮するコスプレ2.5次元舞台にするのではなく、ちゃんと歌舞伎にしてくる。ツケを入れて見得を切る、ぶっ返りがあり立ち廻りがある、黒子が働く…歌舞伎の約束事や様式美は大事にして、でも懐深く、ビジネス的な企画ではなく「人の心を動かし、喜ばれるものを作りたい、届けたい」という想いからのスタート…というのがまた素敵だな、と思いました。今回はコロナ禍のステイホーム期間に久々にゲームをやって感動したから、というのがきっかけだったというのも、本当にいい話ですよね。三年で形になるのは新作歌舞伎としては早い方だそうですが、FF側も嬉しくて意気に感じて、完全協力してくれたからの結果でしょう。
プログラムの挨拶文やあらすじの一部に英訳があるのもいいなと思いました。全世界で愛されているゲームだというし、それが歌舞伎とドッキングとなれば喜んで観たがる海外のお客さんもいそうですもんね。いい気配りだなと思いました。
そしてこのぐるぐる劇場との相性もとても良かったのではないかと思いました。よく考えられて、上手く演出されていたと思いました。なくなる前に来られてよかったです。
座席に着いていたシートマットみたいなのは今回仕様なのかな? 通しで観ても腰もお尻もまったく痛くならないと評判ですが、本当に快適でした。
客層は本当に老若男女幅広く、みんな楽しげでよかったです。気になって手を束ねている人に、もっと届くといいなと願っています。人々はもっと広がって重なって、交流して交錯して、より豊かになっていけるといい。私もその中でじゃぶじゃぶと遊びたゆたっていきたいな、と改めて思いました。良き体験ができました。
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