日生劇場、2024年3月8日19時。
2001年9月11日、ニューヨークで同時多発テロ事件が発生し、アメリカの領空が突然閉鎖された。カナダの最東端ニューファンドランド島の小さな町ガンダーにも大変な知らせが飛び込んでくる。行き場を失った飛行機がガンダー国際空港にやってくるというのだ。人口わずか1万人の小さな町に不時着することになった38機の飛行機と約7千人の乗客・乗員、動物たち…ガンダーは一夜にして人口が2倍近くになり、町長は非常事態を宣言して乗客受け入れ準備を始めるが…
脚本・音楽・歌詞/アイリーン・サンコフ、デイヴィッド・ヘイン、演出/クリストファー・アシュリー、翻訳/常田景子、訳詞/高橋亜子、音楽監督/甲斐正人。ガンダーでの10周年記念イベントに取材し、カナダの学生たちとワークショップして上演したものが雛形の、実話に基づく5日間の物語。12人の役者が100以上もの役に扮して綴る、100分のミュージカル。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどで上演されてきた舞台の、ブロードウェイ版の日本初演。初・非英語上演。
出演者はあいうえお順に、安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫。ちょっとミュージカルを観る人なら誰かしら観たことはある、私はもちろん全員観たことがあるスター揃いです。発表時、そのことがややマイナスに反響が上がっていたことを覚えています。もしかしたら各国の上演ではもっと地味なキャストで小さなハコで小規模で演じられる演目で、それでも長く広く人々に愛されている作品なのだ…ということなのかもしれません。でも、911にはもちろん日本人の被害者も出ていますが、それでも白人でなくキリスト教徒でなく英語を話さない我々が演じて観るということは、今までの上演とはやはり距離があるものだと思います。その中で、上演権を得たホリプロはこの形でやろう、と判断した、ということでしょう。
ただそのためかチケット代が高く、あまりガンガン宣伝していた印象もなくて、そのせいか完売していないと聞いています。私も日和ってA席で観ましたし、2階てっぺんから観たせいもあってだいぶ客観的に観てしまい、エモーショナルな感銘はそれほど受けませんでした。もっと小さいハコで、近い席で観ていたら違っていたかも…でも誰も知らないキャストばかりでは行く気になったかどうか…難しい問題です。評判はいいようなので、尻上がりに売れていくといいなと思います。もちろん観られる価値が十分にある作品だと思いました。早くも今年のナンバーワン決定!みたいなことは私は思いませんでしたが…
2階てっぺんからでは表情の演技なんかは全然わからないけれど(私は宝塚歌劇以外ではオペラグラスを使わないので)、遠目でもみんなちゃんと誰が誰だかわかる声、個性、背格好で、それはさすがにたいしたものでした。そして同じ人が違う役をやっていってもそれもちゃんとわかる。その上でこのスター揃いの布陣が一致団結して舞台を作りコーラスをし、作品を作り上げていくのがよく見て取れました。セットらしいセットはなく、椅子を動かしていくことでそこは機内にも教室にもカフェテリアにもなっていく…演劇らしい演劇でもありました。スターはスターらしい大芝居のグランド・ミュージカルをやればよさそうなものだけれど(非スターにはそれはできないので)、スターでもこういう地道で大変な芝居をしたいものなのでしょう。みんなものすごく楽しそうで、そしてもちろんとてつもなく上手く、難しそうなことを楽々こなして、ハートフルな世界を作り上げていました。それは観ていて純粋に楽しかったです。
私もたまたまテレビを見ていて、でもなんの映像を見せられているのか全然理解できなかったことを覚えています。まだ携帯電話の普及前だったんですね、乗客たちは全然何も知らされないままにただ行き先変更させられることになったんですね。急遽用意された固定電話に並ぶ人々…今より世界はずっと広く遠く、連絡をつけることが大変だったのです。ここからもうすぐ四半世紀にもなるわけですが、果たして世界は少しでも良くなっていると言えるのでしょうか…
さまざまな国、人種、文化、宗教…その衝突、軋轢、和解やパーティー。誰でも食べて眠ってトイレに行く。家族や愛する人、案じる人がいる。出会う人たち、別れる人たち。今回「飛行機の人たち」と呼ばれていた「カムフロムアウェイズ」は、この国際空港がある町の人々にとってはいつもの「遠くから来た人たち」のことであり、これからも迎え、送り出し続ける…タイトルは「遠くから来て」という招待の言葉でもある。ロゴの真ん中のOはおそらくニューファンドランドを中心にした地球になっていて、プログラムの裏表紙のマークは、その地球に男女6人ずつのシルエットが乗っているイラストです。とても雄弁なメッセージで、なんなら宇宙に向けても発信できそうです。でもファースト・コンタクトがあるときには、それに見合うだけの存在でいないとね…
祈りの場面で、泣きました。私たちの宗教はこういうふうではないから。こうした場面ではいつも私は「日本人がこんなのやっちゃっていいのかな」とかドキドキしてしまうのですが、今回はむしろ日本人がやるからいいのだろう、とも思いました。我々の本来の宗教が演じられるどの宗教とも違うから、どの宗教でも同テンションで演じられると思うから…それこそが我々の不幸なのかもしれないけれど。そんなことも考えさせられました。
役者が男女同数で素敵でした。バンドメンバーは男性が多かったけれど、スタッフはどうかな? 日本版プロデューサーは女性だそうですし、数だけなら女性の方が多いのかも。でも管理職的なことは男性がやっているのかも。そういうことも是正されていくといいなと思いました。平等と平和、人類が目指すべきはそこでしょう。そこに幸福はついてくる…
安全に、健康に舞台が上演される世界を。安心してエンタメが楽しめる世界を。武器ではなく本を、食糧を、飲料水を。少しずつでも、賢く、優しく。そう念じて生きていきたいです。
2001年9月11日、ニューヨークで同時多発テロ事件が発生し、アメリカの領空が突然閉鎖された。カナダの最東端ニューファンドランド島の小さな町ガンダーにも大変な知らせが飛び込んでくる。行き場を失った飛行機がガンダー国際空港にやってくるというのだ。人口わずか1万人の小さな町に不時着することになった38機の飛行機と約7千人の乗客・乗員、動物たち…ガンダーは一夜にして人口が2倍近くになり、町長は非常事態を宣言して乗客受け入れ準備を始めるが…
脚本・音楽・歌詞/アイリーン・サンコフ、デイヴィッド・ヘイン、演出/クリストファー・アシュリー、翻訳/常田景子、訳詞/高橋亜子、音楽監督/甲斐正人。ガンダーでの10周年記念イベントに取材し、カナダの学生たちとワークショップして上演したものが雛形の、実話に基づく5日間の物語。12人の役者が100以上もの役に扮して綴る、100分のミュージカル。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどで上演されてきた舞台の、ブロードウェイ版の日本初演。初・非英語上演。
出演者はあいうえお順に、安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫。ちょっとミュージカルを観る人なら誰かしら観たことはある、私はもちろん全員観たことがあるスター揃いです。発表時、そのことがややマイナスに反響が上がっていたことを覚えています。もしかしたら各国の上演ではもっと地味なキャストで小さなハコで小規模で演じられる演目で、それでも長く広く人々に愛されている作品なのだ…ということなのかもしれません。でも、911にはもちろん日本人の被害者も出ていますが、それでも白人でなくキリスト教徒でなく英語を話さない我々が演じて観るということは、今までの上演とはやはり距離があるものだと思います。その中で、上演権を得たホリプロはこの形でやろう、と判断した、ということでしょう。
ただそのためかチケット代が高く、あまりガンガン宣伝していた印象もなくて、そのせいか完売していないと聞いています。私も日和ってA席で観ましたし、2階てっぺんから観たせいもあってだいぶ客観的に観てしまい、エモーショナルな感銘はそれほど受けませんでした。もっと小さいハコで、近い席で観ていたら違っていたかも…でも誰も知らないキャストばかりでは行く気になったかどうか…難しい問題です。評判はいいようなので、尻上がりに売れていくといいなと思います。もちろん観られる価値が十分にある作品だと思いました。早くも今年のナンバーワン決定!みたいなことは私は思いませんでしたが…
2階てっぺんからでは表情の演技なんかは全然わからないけれど(私は宝塚歌劇以外ではオペラグラスを使わないので)、遠目でもみんなちゃんと誰が誰だかわかる声、個性、背格好で、それはさすがにたいしたものでした。そして同じ人が違う役をやっていってもそれもちゃんとわかる。その上でこのスター揃いの布陣が一致団結して舞台を作りコーラスをし、作品を作り上げていくのがよく見て取れました。セットらしいセットはなく、椅子を動かしていくことでそこは機内にも教室にもカフェテリアにもなっていく…演劇らしい演劇でもありました。スターはスターらしい大芝居のグランド・ミュージカルをやればよさそうなものだけれど(非スターにはそれはできないので)、スターでもこういう地道で大変な芝居をしたいものなのでしょう。みんなものすごく楽しそうで、そしてもちろんとてつもなく上手く、難しそうなことを楽々こなして、ハートフルな世界を作り上げていました。それは観ていて純粋に楽しかったです。
私もたまたまテレビを見ていて、でもなんの映像を見せられているのか全然理解できなかったことを覚えています。まだ携帯電話の普及前だったんですね、乗客たちは全然何も知らされないままにただ行き先変更させられることになったんですね。急遽用意された固定電話に並ぶ人々…今より世界はずっと広く遠く、連絡をつけることが大変だったのです。ここからもうすぐ四半世紀にもなるわけですが、果たして世界は少しでも良くなっていると言えるのでしょうか…
さまざまな国、人種、文化、宗教…その衝突、軋轢、和解やパーティー。誰でも食べて眠ってトイレに行く。家族や愛する人、案じる人がいる。出会う人たち、別れる人たち。今回「飛行機の人たち」と呼ばれていた「カムフロムアウェイズ」は、この国際空港がある町の人々にとってはいつもの「遠くから来た人たち」のことであり、これからも迎え、送り出し続ける…タイトルは「遠くから来て」という招待の言葉でもある。ロゴの真ん中のOはおそらくニューファンドランドを中心にした地球になっていて、プログラムの裏表紙のマークは、その地球に男女6人ずつのシルエットが乗っているイラストです。とても雄弁なメッセージで、なんなら宇宙に向けても発信できそうです。でもファースト・コンタクトがあるときには、それに見合うだけの存在でいないとね…
祈りの場面で、泣きました。私たちの宗教はこういうふうではないから。こうした場面ではいつも私は「日本人がこんなのやっちゃっていいのかな」とかドキドキしてしまうのですが、今回はむしろ日本人がやるからいいのだろう、とも思いました。我々の本来の宗教が演じられるどの宗教とも違うから、どの宗教でも同テンションで演じられると思うから…それこそが我々の不幸なのかもしれないけれど。そんなことも考えさせられました。
役者が男女同数で素敵でした。バンドメンバーは男性が多かったけれど、スタッフはどうかな? 日本版プロデューサーは女性だそうですし、数だけなら女性の方が多いのかも。でも管理職的なことは男性がやっているのかも。そういうことも是正されていくといいなと思いました。平等と平和、人類が目指すべきはそこでしょう。そこに幸福はついてくる…
安全に、健康に舞台が上演される世界を。安心してエンタメが楽しめる世界を。武器ではなく本を、食糧を、飲料水を。少しずつでも、賢く、優しく。そう念じて生きていきたいです。