駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

パラドックス定数『諜報員』

2024年03月18日 | 観劇記/タイトルた行

 リヒャルト・ゾルゲ。父はドイツ人、母はロシア人。ドイツのジャーナリストとして日本に入国したが、その正体はソビエト連邦の諜報員。独自の情報網を作り、信頼できる協力者たちとともに数年にわたり活動。しかしついに特別高等警察に逮捕される。協力者たちは知らなかった、信じていたのに、裏切られた、と口々に叫ぶが…
 作・演出/野木萌葱。全1幕。

 前回は何故かあまりピンとこなかったのですが、これはおもしろかったです。なんといってもオチがよかった!
 舞台中央に、二段ベッドがふたつある留置所らしき部屋。通路になるスペースがその周りを囲んでいるんですが、ところどころに段差があるのがとても効果的(舞台美術・舞台監督/吉川悦子)。舞台の両サイドは取り調べなどが行われる別室などになり、けれど照明の変化(照明/伊藤泰行)と二役をやる役者の演技で、舞台のすべてが時間も空間も飛び越えるのでした。
 その留置所? 監獄? に、次々と逮捕されてきた「協力者」たち4人が揃うところから、舞台は始まります。他に彼らを取り調べている刑事と、その部下の、男優6人芝居。
 お話が進むにつれて、協力者たちの境遇や活動や思想や人となりが見えてきて、でも4人のうちのひとりは二重スパイだったりして、さらに回想なども混じって、いわゆるゾルゲ事件を通して、当時の「活動家」と呼ばれる人々の想いや、彼らが何と戦っているのか、などが浮かび上がってくる。彼らは何を守ろうとしているのか、国家か、秩序か、正義か、自由か…スリリングで、そしてまるで現代のお話のようでした。腐敗していく国家権力に対して危機感を持ち、立ち上がろうとしている者たちの物語。現代もこうあるべきなのでしょう、けれど今も、かつても「この国に革命は無理だ」と言われてしまう現実…そうなのでしょうか? 本当に? でも革命を起こしてでも守らなければならないものがあるのでは?
 この国が社会主義や共産主義国家になることはまずない、けれど独裁国家になる道はもう見えている。それくらい、民主主義、放棄主義が全然根付いていない国なのです。我々はこの当時からまったく学べていない、賢くなっていないようなのです…もうもう、怖くて、悔しくて、泣きそうでした。
 でも、これはあくまで歴史の物語でもあるので、私はまたしても「…で?」ってなりそうだな…などと考えていたところに、鮮やかなオチが来た、という感じでした。でも歴史的にも納得の、そしてだからこそより無力感を感じさせるような、オチ…
 でも、釈放された者たちが紡ぐ未来がある。そこに私たちは今、生きている。希望や理想を捨ててはならない、戦わなくてはならない。「嵐は来ない。もう来てる。」とは、そんなことなのかな、と思いました。
 いい声の役者さんが多くて、二時間みっちり集中して観られました。ユーモラスなくだりがところどころあるのも、とてもいいなと思いました。開演前に銃声に関するアナウンスがあったのもとても良き。大きな音がダメな人もいますからね。

 次回公演は来年2、3月で『ズベズダ~荒野より宙へ~』とのこと。ロシア語で「星」、国際宇宙ステーションのモジュールの名前じゃないですか。私が嫌いなわけないヤツじゃないですか…ザ・ポケットか、大空さんで行ったなー、また小さいところでやりますねー…行きますね。











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