駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

新国立劇場演劇研修所『理想の夫』

2022年02月06日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 新国立劇場、2022年2月4日14時。

 19世紀末期のロンドン社交界。外務大臣ロバート・チルターン(須藤瑞己)はウィーン社交界の花形・チェヴリー夫人(末永佳央理)から、過去の過ちを種に不正に加担するよう迫られる。妻のチルターン夫人(笹野美由紀)は彼を清廉潔白な理想の夫と信じ、崇拝していた。彼女に打ち明けることができず苦悩するロバートは、親友のゴーリング子爵(神野幹暁)に相談するが…
 作/オスカー・ワイルド、翻訳/厨川圭子、演出/宮田慶子。1895年初演、ワイルドの四大喜劇のひとつとされるが日本では初上演。第15期修了公演として上演。全2幕。

 星組『ザ・ジェントル・ライアー』の予習に、とチケットを取って出かけてきました。残念なことに私のバウチケは公演中止期間に当たってしまい、今はあわてて手配したKATTチケットを握りしめて待つ事態なのですが…今回の観劇で軽快なせおっち、生真面目なあかちゃん、悪女なはるこ、いじらしいほのかちゃん、おきゃんでおはねなうたちが見えた気がしたので、是非とも上演してほしいと思っています。戯曲では名前しか出てこない人物も宝塚版では登場するようですし、場面や情景も増えるでしょうし、何より歌とダンスとフィナーレがつくのですからね。
 今回は、やや古風な、お芝居らしいお芝居を楽しみました。貴族のタウンハウスでなされるほぼ会話劇、みたいな戯曲ですものね。先日復刊された角川文庫の訳者あとがきによると(未読。プログラムの記載より引用)「ワイルドの台詞は技巧的であり、非現実的なまでに洗練されている。日常生活の生の会話を戯曲の台詞として使うなどはもっての他(註※ここは「外」が正しいのでは…)、そんな作家は芸術を人生の奴隷とさせるようなもので、芸術家とは言えない。芸術は人生より優位に立つものであり、人生に手本を示すものであ」る、という美意識に基づいて作られている作品なんだそうです。それにしては、二幕はまあまあ笑いが沸いていましたが、一幕では台本をただ朗読しているように見えかねない退屈な場面があったりと、芝居の緩急ないし演出が足りないのかな、と思わせる部分はあったかな、と思います。喜劇だけれど、シニカルに振るのかユーモラスにやるのかそれとももっとコミカルなのか、もうちょっと工夫があってもいいのかな、と感じたのです。でも台詞は明晰でドレスのお衣装(衣裳/西原梨恵)がとても素敵で、世界観が味わえて楽しかったです。この時代の貴族は社交シーズンはロンドンのタウンハウスで、午前中は乗馬か散歩、午後に男性はクラブか議会、女性はお茶会などの社交、夜は揃って舞踏会やオペラ観劇やパーティー、オフシーズンにはカントリーハウスへ…夢のような生活ですね(笑)。楽隠居できたらやりたいものです。
 星組版は、現代日本で上演され女性が演じ主に女性の観客が観る舞台、ことに宝塚歌劇として、ワイルド特有のこの女とは、男とは、妻たるもの、夫たるもの…みたいなやや冷笑的な視点をどう振って作るか、が問われるところだと思います。ただのラブコメにしちゃうのはもったいないと思うし、作品の本質がわかっていないってことになりそうですしね。期待していますよ! 無事の上演をお祈りしています。
 マークビー卿夫人役の日沼りゆが、ちょっと星南のぞみふうの美人で目を引きました。星組版では水乃ちゃんのお役かな、楽しみです。そしてうたちのメイベル(安藤百合)はさぞキュートでチャーミングなことでしょう…! フィブス(高倉直人)が素敵でした。こういう従僕って絶対この世界にいますよね…!
 そういえば登場人物たちがみんな戸口でいちいち止まってから舞台に出てくるのはなんだろう、としばらく気になっていたのですが、あれは見えない従僕がいて見えない扉を開け閉てするのを待つ仕草だったのかなあ…正直微妙に感じました。このあたりのリアリティとの格差の課題は、こういうお芝居にはつきものなのかも…うぅーむ。

コメント
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