駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

またまた少女漫画時評、というほどのものでもない、けれども。

2020年12月21日 | 日記
 先日また職場で、1巻なのでちょいと読んでみようかな、と手に取った以下の4タイトルが、いずれも8月とか9月に出た本で、今までどんだけ仕事その他いろいろテンパっていて手が回らなかったんだか自分…とちょっとしょんぼりしました。
 でも、たまたまいずれも白泉社花とゆめコミックスだったのですが、なかなかの発見がありましたよ…!


●梅ちゃづけ『JKくのいちは全てを捧げたい』

 「くノ一」では…というつっこみはまあやめておくとして、「花とゆめコミックスSpecial」レーベルで出た新書版コミックスですが、作品自体は白泉社のアプリ「マンガPark」で連載配信されているものです。著者初の紙コミックスの模様。最近はこうしたケースが増えてきましたよね。
 内容は、現代日本が舞台で、途絶える寸前の忍びの里から忍びの末裔たちを集めて忍術の継承教育をしている私立高校に通う、猿飛小花をヒロインとする「本格忍者アクションラブコメ」(帯のキャッチより)です。この「本格」はどこにかかるのかな…?(笑)小花は親がいない設定のようで、入学させてくれた「主様」に感謝し憧れていて、強くなりたい役に立ちたい、と思っている少女です。相手役は同じ里出身の幼なじみの優等生、でも学校が嫌いであまり登校していない虎之助、メガネ(大事な情報)。記念式典で主夫妻の替え玉をふたりで務めることになり、「任務中怪しまれたら終わり…/夫婦役を演じるのにスキンシップは不可欠」「スキンシップ…って?/どこまで?」「セックス」となって…という、まあ、TLですね。てかTLってまだ言うのかな…てかスキンシップって令和でも使われている言葉なのか…そもそも和製英語では……
 ついTLと言ったのは、絵柄がいわゆる小集講白のそれじゃないように見えるからです。もしかしてBLとか描いていた作家なのでは…? エロは楽しんで描いている感じがあって好感。ただ結合(オイ)場面2ページだけ妙につまらないのは何故なんだ…つまりなんにせよ、この程度の表現なら全然少女漫画範疇なんだけれど、絵柄のせいでそういうメジャー感がないのでした。でもラブコメとしてやっていることはとてもシンプルで、健やかですらあります。
 おそらくアプリ内で閲覧者数などが多く、それで紙でもコミックスを出してみるか、となったんじゃないかと思われます。でもアプリでタダで、ないしよくわからず結局はうっかり課金しているポイントとかチケットとかで読んでいるユーザーは、わざわざ紙コミックスを買ってまで追わないんじゃないのかなー。そして書店の店頭に「何かおもしろい作品ないかな」とやってくるタイプの読者は、白泉社棚にこの作品を見つけて手を伸ばすだろうか…FCかKCならともかく、という気がしてしまいました。そしてもしうっかり買っても、「…こんなエッチなの…ッ!」って拒否反応示して次巻から買わない、とかになっちゃわないかなあ…つまり、白泉社の「少女漫画」をすべて花とゆめコミックスで出すのはちょっと無理があって、こういうタイプの作品は別のレーベルを立てるかせめてもっと違う装丁で出すとよかったのではなかろうか、とちょっと感じた、という話です。それとも今は花ゆめコミックスもカバー表1のレイアウトを変えたので(あの正方形囲みは特徴的すぎました…)、背を見なければ花ゆめコミックスだとは判別しづらいから、新刊棚に平置きされていればけっこううっかり買われて満足され、ファンがつくのかなあ…
 作品自体は私はフツーに好きです。ベタだけどおもしろい。メガネだし(そこか)。続きも読みたい。でも売れてなくて紙で続きが出なくなっちゃったら寂しいな、私はアプリでは追っかけないだろうからな…という、話でした。
 あ、元が配信だからだろうけど、写植がデカすぎるのが個人的にはやや恥ずかしいです…いや老眼には優しくていいっちゃいいんだけどね、美意識としてね。幼稚に見えるじゃん…


●夢木みつる『この凶愛は天災です』

 こちらは「LaLa」の連載。前作を全10巻で完結させている作家さんなので、ちゃんとした人なのでしょう。でもこの新作はびっくりするくらい凡庸だな!?と感じてしまったのでした。
 悪行を尽くした四柱の悪神・四凶の力が帝によって勾玉に封じられる。その勾玉を赤ん坊の頃にうっかり飲み込んでしまったヒロイン・猫美が、帝の末裔の死によって肉体を復活させた四凶に狙われるようになる。四凶はいずれもタイプの違う美青年の姿で、力を奪うべく彼女の唇を奪おうとする…まあ、ベタベタです。でもベタベタすぎてなんの目新しさもない。四人のタイプ分けもめっちゃベタ。本当はこういうところに作家の個性、ぶっちゃけ性癖がにじみ出ないとこういうのっておもしろくならないと思うんだけど、ホントにコレでいいの?という気しかしません。でもあっさりアニメ化とかゲーム化とかするのかな…虚しいな…イヤすんごい当たってるんだったら単に私の見る目がないってことなので、すみません謝ります。
 ララ作品にしては絵柄に繊細さがないというか描き込みが少なく思えるのも、私はもの足りなく感じるのでした。すごく人気がある作家さんとかだったらホント重ね重ねすみません…


●漫画/烏丸かなつ・原作/兎山もなか『正臣くんに娶られました。』

 このコンビで他社刊で前作があるようですね。こちらはウェブコミックマガジン「Love Jossie」で連載配信中の作品で、やはり調子がいいので紙で出してみましたパターンのようです。
 母親とふたり暮らしのヒロインの知佳は、父親とふたり暮らしの正臣と幼なじみで、母親の帰りを待って正臣の家で三人で夕食を取る暮らしをずっと続けていた。けれど母親が亡くなり、よく知りもしない親戚に引き取られそうになり、「嫁に来る?/居場所がないなら俺と家族になれば?」と言われて「高校生の幼馴染みと交際0日でいきなり入籍!?」(帯キャッチより)…という、「高校生カップルのうぶエロ新婚物語」(カバー表4より)です。
 これまたベタベタのTLです。今どき「嫁」「入籍」という不正確な用語の使い方はよろしくないなと思いますが、逆に相手役男子がコンドームを着ける描写がちゃんとあるのが、今どきっぽくて素晴らしいなと思いました。口を切られた袋を描くだけですませるんじゃなくて、「ゴム着けるとこ見たい?」「え/…いや/…うーん」という会話があり、ヒロインが枕抱えて横たわって待っている間にベッドの端に腰掛けた男子がズボンを脱いで(大事。尻を描くとセクシーじゃないと思う作家が多いのか、男に半脱ぎでさせる作家が多すぎるよ…不精だし不潔だしファスナーとか当たって痛そうでヒヤヒヤする。そっちの方が全然セクシーじゃないんですけど…この作品では「…お尻だー」ってコマもあって、とてもナチュラルでリアルでよかったと思いました)装着しているコマが描かれるのです。手元自体はフキダシで隠してるんだけど、すごくいいことだなと思いました。前段で男子に「当たり前のことだとは思うけど/避妊は必ずするから」と言わせるのも、その前段にそもそもヒロインに「男の子任せはよくないか」とドラッグストアに買いに行かせているのも素晴らしい。時代は確実に前進しているのだな、とちょっと感動しました。
 でもこれも、背に掲載誌名を入れてあるとはいえ、花ゆめレーベルで出して大丈夫なのかしらん…といらぬ心配をついしてしまうのでした。


●池ジュン子『末永くよろしくお願いします』

 こちらはまた「LaLa」連載作品。キャリアがある作家さんのようですが、前2作がいずれも「オネエ」ものなのは何故なんだ…そういう性癖なのでしょうか。今回は、唯一の肉親だった父親を亡くした「残念美少女」輝が、親戚の「ツンデレ書道家」清水さん宅で暮らすことになり…という、これまたベタベタの少女漫画設定のお話です。
 目新しいのはヒロインのキャラクターかな。なんというか…いい感じです(笑)、よければ読んでください。で、ヒロインの方が相手役男子に惚れて押せ押せになる同居ラブコメなわけですが、これまた時代なのが「俺は成人で/輝は未成年だ」(「成人」に「おとな」、「未成年」に「こども」のルビ)という台詞がきちんとあること。ヒロインは「…子供?/私は結婚出来る年齢ですが」と言い返しますが、「屁理屈こねる所が子供なんだよ」と返されます。「7歳差なんて清水さんが/『やーいロリコン』/って後ろ指指される程度の問題です」「かなり痛手だよ」(トゲトゲフキダシ)というギャグめいたやりとりもありますが、ロマンスの単なる障害のための障害ではなく、コンプラとしてポリコレとして、またヤング子女である読者教育のためにも、とても正しいことだと思いました。ちゃんと時代は動いているんだなあ。
 しかし23歳でおじさん扱いされるんだから(イヤ女子高生からしたら確かにそうなんですが)男子もタイヘンですな…犬がいい味を出していて、学校側でもいい広がりの予感をさせて1巻が終わっているので、続きが楽しみです。
 これはとても正統派な白泉社作品、という気がしました。まあ私のこの感覚もだいぶ古いものなのかもしれませんけれどね…


 最近はこんな出会いがありました、というお話でした。


コメント
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