駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ヘッダ・ガブラー』

2018年04月18日 | 観劇記/タイトルは行
 シアターコクーン、2018年4月18日18時半。

 高名なガブラー将軍の娘ヘッダ(寺島しのぶ)は社交界でいつも男たちに崇められる存在だった。その父が世を去り、ヘッダは将来を嘱望される学者イェルゲン・テスマン(小日向文世)と結婚する。半年に及ぶ長い新婚旅行から帰ったふたりがおちついたのはヘッダの強い希望でイェルゲンに購入させた新居だった。イェルゲンの叔母ミス・テスマン(佐藤直子)とメイドのベルテ(福井裕子)がふたりを迎えるが、ヘッダは新居への不満や、早くも子の結婚に退屈している様子を隠そうともしない…
 作/ヘンリック・イプセン、翻訳/徐賀世子、演出/栗山民也、美術/二村周作、照明/勝柴次朗、衣装/前田文子。1890年初演、全二幕。

 イプセンと言えば『人形の家』で、これは6月に大空さんが出るのでまた観るわけですが、こちらはタイトルしか知らないので出かけてきてみました。1907年ニューヨーク公演ではアラ・ナジモヴァがヘッダを演じているそうですね。
 ストーリーとかキャラクターの設定とか戯曲に描かれているドラマの意味、はもちろんわかったつもりなのですが、個人的にはピンときませんでした。共感できない、というのともまたちょっと違うかな、とは思うのですが…
 むしろ、こういう形ではなくとも、いろいろ不本意なことが重なって追い詰められてしんどい思いをしている人、というものには心当たりはあるので、今の日本は身近に拳銃がこんなにナチュラルにある社会でなくてそこは良かったな、とか思ったりはしました。でも、私自身は、いろいろ不本意なことは日々そりゃ多少あったとしても、総じて能動的に自主選択的に生きていられているしそれをある程度周りからも認められているとも思うので、こんなふうにまで追い詰められていたり投げやりになったりはならないですんできているので、そういう身の今の私が観たいお話ではなかった、ということなのかな、と思いました。もっとなんかすごく仕事がしんどいときとかに観ると、わかるよ逃げたくなるよでもさあ…みたいにすごくシンクロしていろいろ考えさせられて心震わせられたのかもしれません。そういう意味ではいい観客ではありませんでした、すみません。
 役者はみんな達者で適材適所で素晴らしかったです。寺島しのぶのなんてことないドレス姿がまた素敵でした。セットも端整で、でも窓から入る光とかがとても効いていて、いい舞台でした。




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千早茜『クローゼット』(新潮社)

2018年04月18日 | 乱読記/書名か行
 秘密と傷みに縛られ、男性が苦手なまま大人になった洋服補修士の女。要領よく演技するのが得意だが、本当に好きなことから逃げてばかりいるフリーターの男。洋服を愛している、それだけが共通点のふたりが、18世紀から現代まで一万点以上の洋服が眠る美術館で出会い…洋服と人間への愛にあふれた、心の一番弱くて大事なところを刺激する長編小説。

 素敵な装丁と装画の一冊でした。でもせっかくこんなに今日的なモチーフを扱っているのに、ストーリーがないよドラマがないよこれだけなんてもったいないよ!
 男性に生まれて、でも女性の服が大好きで着るのも好きで、でも同性愛者であるとかトランスジェンダーであるとかではない(…多分。というかそのあたりがほとんどこの作品では描かれていない。でも単なる女装趣味とは違うようには描かれている、のだと思う)ハンサムな青年。男性とつきあうより女性の群れにいる方が楽で、でもそこにも求めるものが得られないでいる…
 そんな彼を幼いころには女の子だと思っていてともに遊んでなんならお姉さんぶって守ったりかばったりして、そのせいでとある怖い思いをして以後、男性不信になってしまって通常の社会生活もおぼつかない女性。
 その親友で、クールで美貌のハンサムウーマンで、仕事ができて、でもかつては太っていてかつ家庭に恵まれていなくて…という女性。
 こんな設定の三人が揃って、でも特に話がないままに終わるなんて意味不明すぎますよ…! 別に恋愛を描けとか成長を描けとかそんな単純なことは言わないけれど、でももっと何かあるべきでしょう。美術館の成り立ちとか、いろいろ思わせぶりに伏線引いておいて放り出しっぱなしじゃないですか。あのカメラマンとかも。なんなんだよー。何がやりたくて書いた小説なんだよー。
 『硝子のコルセット』というタイトルから改題したそうです。それはとてもいいなと思いました。だからこそ、なんか、ホントもったいなかったです。ねちねち楽しく読み進めてきただけに、「えっ、これで終わり!?」とけっこう呆然としてしまいました。しょぼん。


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フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(創元推理文庫)

2018年04月18日 | 乱読記/書名は行
 一生愛し続けると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした心優しき銀行強盗…魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き挙げた珠玉の連作短編集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作。

 舞台『TABU』の原作小説『禁忌』の作家、としか知らなかったのですが、おもしろく読みました。シャープでスリリングで慈愛に満ちていました。一連の連作短編集としての構造も見事すぎました。解説もとても良かったです。
 けっこう著作がたくさんある作家なんですね、いろいろ読んでみようかなと思いました。


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