駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇雪組『ひかりふる路/SUPER VOYAGER!』

2018年01月21日 | 観劇記/タイトルは行
 宝塚大劇場、2017年11月21日11時、28日13時、18時(新公)。
 東京宝塚劇場、2018年1月6日11時、16日18時半。

 フランスの片田舎アルトワ州アラスに生まれたマクシミリアン・ロベスピエール(望海風斗)は幼くして母親を亡くし、その後弁護士であった父も失踪、パリのルイ・ルグラン学院に預けられる。同じ道を歩めばいつか父と再会できるかもしれないと、勉学に励み弁護士となった彼は、故郷の政治家に転身し、やがてパリの街で革命に身を投じることになる。一方、貴族に生まれたというだけで人生を狂わされた革命の犠牲者のひとり、マリー=アンヌ(真彩希帆)は、革命への復讐心ゆえに、革命そのものであるロベスピエールを暗殺しようとパリの街で機会を窺っていた…
 作・演出/生田大和、作曲/フランク・ワイルドホーン、音楽監督・編曲/太田健、振付/御織ゆみ乃、桜木涼介。新生雪組トップコンビのお披露目公演。

 非常に良くできていると思いました。毎度エラそうな物言いですみません。でも私は感心しましたし感動しましたし、好きです。もちろんいろいろアレなところはまだまだあるとも思うのですが、ついに、やっと、新時代の作家による新時代が来つつあるのではないかとまで私は評価したいのです。それをネチネチ語ります。

 タレーラン(夏美よう)とロラン夫人(彩凪翔)のアバンから始めて、国王(叶ゆうり)の裁判場面へ。サン=ジュスト(朝美絢)の『ベルばら』なんかでも有名な弾劾演説により死刑が確定し、国王は階段を上がってギロチン台へ…
 緞帳が上がったときからあった斜めに走る線はギロチンの刃をイメージしたもので、映像でも出てきますが実際の装置や大道具としてはギロチンが出てこない舞台になっていることがひとつのミソですね。生田先生らしいこだわりを感じます。いいんだけど、でもちょっと行きすぎた男子の稚気みたいなものも感じて微笑ましいです。それはともかく映像のギロチンはデフォルメされすぎて、私は最初のうちは単なる血しぶきのイメージなのかと思ったくらいでした。
 国王がいなくなり(すでに退位はしていたので殺さなくともよかったはずだ、という意見はもう彼らには届きません)真の共和国が生まれた、さらに自由と平等と友愛の世界をみんなで目指そう、主導者となってくれる彼の演説をみんなで聞こう…となって主人公がセリ上がってきます。カンペキな流れですね。ライト、拍手、主題歌。勇壮なワイルドホーン楽曲を楽々と歌いこなすだいもんの歌唱力があったればこその演出でもあるかもしれませんが、つかみはバッチリです。
 そしてこの歌が素晴らしいのは、メロディはもちろん、歌詞が作品の主題歌として自由や未来を歌い上げる輝かしいものになっていて新しい国と組への希望を感じさせるのと同時に、マクシムの演説の内容にもなっていることであり、そして演説として考えた場合には理想的だけれど空疎で非現実的な言葉ばかりが並んでいることに気づかざるをえないところです。初見のファンにはトップスターお披露目や組の新生を祝福する歌に聞こえて感動に胸震えさせ、何度もリピート観劇するようなファンにとってはもうこの時点からその後の最終的な破滅と悲劇を予感させて涙させる、素晴らしい構造になっていると思いました。
 銀橋を渡って、仲間たちの輪に笑顔で駆け込むマクシム。それと同時に輪から外れるひとつの影…このヒロインの登場の仕方も素晴らしい。そこからの展開、演出もこれまたきぃちゃんの見事な歌唱力があったればこそですが、鮮やかすぎて唸らされました。
 貴族の娘として何不自由なく育ったこと、革命が起きてその幸せが無惨に奪われたこと、逆恨みだとわかってはいるけれど革命のシンボルとしてのマクシムを殺したいと思ってパリに出てきたこと、が歌い語られます。そしてパリの街の暗闇に消えていく…ここまで、実に完璧なイントロだと思いました。
 ヒロインのキャラは確かにちょっと強すぎるんじゃないかと思わなくもないけれど、貴族の令嬢ったってみんながみんな泣いて嘆いて気絶しているだけの娘ばかりじゃないはずだし、剣のたしなみくらいあることにしてもおかしくないのかもしれないし、これくらいの精神的な強さを発揮してくれないと多くの現代日本女性の観客に今や共感してもらえないと思うんですよね。こういう現代化は私はいいと思います。そしてもちろんきぃちゃんのキャラクターにも合っていて、生徒の魅力を発揮させることにもなっていると思うのです。
 ちなみにこのキャラクターは架空のもので、名前はフランス国家の暗喩なのではないか、彼女はロベスピエールが愛しすぎ破壊してしまったフランスの化身、象徴みたいなものなのではないか…というなかなかうがった意見がありましたが、生田先生どうなんでしょう? ベタだけどありえるのかな。
 続く場面はジャコバン倶楽部。政敵ジロンド党を追い落として若者たちは意気軒昂、でもまなはるとかカリとかの反乱分子ももういて、一枚岩ではないことも見せている。そんな中で、豪放磊落な人気者のダントン(彩風咲奈)とそのしっかり者の妻のガブリエル(朝月希和)、気が使えてすべてのバランスを取るようなデムーラン(沙央くらま)とその妻リュシル(彩みちる)ら、マクシムの仲間たちが描かれます。デムーラン夫妻はラブラブだけれどダントンは恐妻家で、マクシムだけがまだ独り身だからそろそろ身を固めろよ、なんて冷やかされているところにマリー=アンヌが現れる…素晴らしくベタな流れで大変よろしい。ちなみにここで下宿先の娘としてマクシムに気がありげな様子が描かれるエレオノール(星南のぞみ)が、史実ではロベスピエールのほぼほぼ内縁の妻状態だった女性だそうですよね。でも結局彼は生涯独身だったのでした。
 この場面のラストにマクシムに絡むサン=ジュストがまた妖しくていいですね。ふたりはここで初対面ということなのでしょうか。サン=ジュストの、今にもストーカーに変わりそうな熱烈ファンっぷりがよく表現できていると思いました。あーさが組替えでこんなに大きな扱いをされるとは実は私には意外でしたが、まずはよかったよかった。ニンにも合っていたし、あの美しさはハマっているし、武器だし。何故か私はノー興味なんですけれどね…
 マリー=アンヌを送っていくことになるマクシム。荷車に轢かれそうになる彼女をかばって抱き合って…みたいなベタな流れはあるものの、ここでころっとマリー=アンヌがマクシムと恋に落ちちゃって復讐を捨てる、とはすぐならないところがいい。もう1ステップ踏むことが大事だと思うからです。とりあえず復讐は保留…
 一方でジロンド党員たちはダントンの失脚を狙い、不正送金の証拠をジャコバン派に流して内部分裂を企てていく。その場を立ち去ったダントンがまた上手に出てくるとき、引っ込んだ袖より手前には出てくるのですが、舞台真ん中でまだ前の場面の芝居をやっているので、その場に戻ってきたようにちょっと見えてしまっていました。ここは工夫が必要だったかも。ただそのあとのダントンとガブリエルのやりとりの秀逸さに私は本当に感動しました。
 ダントンは喧嘩っ早い、喧嘩好きみたいなキャラで通っているけれど、本当は別に喧嘩が好きなわけではなくて、ただ売られた喧嘩はきちんと買うべきだと思っているし買った以上きちんと戦って勝って納めるべきだと考えているだけで、そしてそうした喧嘩も最終的には喧嘩そのものがない、すべての人が戦わずにすむ世の中を築くためにしているためのものなのである、本当はダントンは実に優しい、いい男なのである…と理屈にすると長いところをこの夫婦の情愛あふれたごく短いやりとりに昇華しているところが素晴らしいし(総じて生田先生の脚本は理屈が通っている点は素晴らしいもののわりと直截でそのままで理屈っぼすぎるくらいなので、ここまでうまくこなれている場面は残念ながら他にそうないと思うのですよ…)、この夫婦の情愛の在り方も素晴らしいと思うのです。ちょっと口やかましい妻と恐妻家の夫、ってある種のステロタイプなんだけれど、本当にそのまんまにつまらなく描く男性作家ってたっくさんいると思うんですよ。というか私は今までそういうのしか見たことがない。
 でも今回のこのふたりは、一見そういうポーズを取っているけれどそれはあくまでポーズなのであり、本当はちゃんと理解し合っていてラブラブの夫婦なんだ、ということがきちんと描かれているじゃないですか。そこが素晴らしい。夫婦っていうとなんかワケありにしないと特に夫のキャラがカッコよく見えない気がする、みたいな病に罹っている男性作家って本当にたくさんいると私は思っているけれど、そしてそれは単にそう考えるおまえがカッコ悪いってだけのことなんだよと私は言ってやりたいところなのだけれど、生田先生は大丈夫な、若くて心が柔らかくて、新時代の男性作家なのでしょう。
 さてしかし、革命が広まるのを恐れた近隣諸国はフランスに戦争を仕掛けてきます。そう、私たちの半端な知識ではフランス革命とはバスチーユ陥落でありパンを求めた女たちのベルサイユへの行進であり国王夫妻の処刑であり、そしてそのあたりで止まってしまっているのですけれど、それで革命は完遂されたというものではなくて、その後も歴史は続くし問題は山積なのでした。
 外国に攻め込まれたら困るんだから一般市民を兵士に仕立てて立ち向かわせなければ、という現実的な意見のダントンと、一般市民を戦争に巻き込んではいけない、人々を苦しめてはならない、みたいな理想は語るけれどでは代案は?と言えばそれがないマクシムとの対立。わかりやすい。そして戦端は開かれ、さらに王党派が内乱を仕掛けて、フランス国内は大混乱に陥っていく。
 マクシムは壁にぶち当たった気分でポン・ヌフに佇み、それまで議会をずっと傍聴してはいたけれどマクシムに声をかけることはなかったマリー=アンヌと、やっとふたりで語らう時を持つ…
 このくだりが、それこそやや理屈っぽいのだけれど、前段で述べたように彼らが一足飛びに恋に落ちかつ相思相愛になるのではないという流れも含めて、素晴らしい展開だと私は思いました。マクシムの過去と理想が語られ、マリー=アンヌにさらに彼への理解と共感が生まれ、復讐を捨てて彼と共に生きよう、共に平和な世の中を目指して働こうと決意する…美しい。家族観察云々ってところは私にはちょっと筋違いに見えて、ジョークとしてもよくわからなかったし不必要な気がしてしまったのですけれどね。
 その後のルノー夫妻や町の女たちが革命の精神を語るくだりも素晴らしい。つなぎの場面として何か必要だったというだけかもしれないけれど、わざわざこうした場面が作られたということは本当に革新的なことだと思います。そもそもこういう発想すら持たない男性作家しか今までいなかったと思うからです。女性参政権を語る女性たちを普通に、かつ肯定的に描く男性作家がやっと現れたのです。
 一方、政治的な画策は進み、ダントンの辞任とマクシムの孤立、恐怖政治の確立へと、事態は転がり落ちるかのように悪化していきます。このあたりは確かにやや急で雑で、サン=ジュストが単なる独占欲のためにダントンを追い落とそうとしたのかとか、ル・バ(永久輝せあ)以下のマクシムのある種の側近たちの描かれ方がやや平板で手が回っていない感じがあるのではないかとか、いろいろ駆け足で問題ではあるのですが、なんとか納得も理解もできるし、まあがんばっている脚本だよな、と思います。
 恐怖政治に至る流れは東京公演で台詞が足され、よりフォローされるようになりましたがより理屈っぽくなったとも感じられ、そして結局「ホンマかいな」って気持ちはより強くなってしまったかもしれません。政争を上手く表現することはとても難しいのだと思うし、でも後付けの解釈って確かに後付けでしかなくて「ホントにそうだったの?」って気がどうしてもしちゃうんだと思うのです。彼らは最初からこんなふうに意識的に「恐怖」を利用しようとなんてしてなかったんじゃないかなあ、政敵をガンガン粛清していったら結果的に周りが怯えて口をつぐみ味方するようになっただけでそれを後年の人が恐怖政治と呼んだだけなのではないの?とかね。人ってこんなふうに意識的に暴力的になるとかはしないと思うんですよ、だからもっと「単にフラれた腹いせにカッとなって悪徳政治家に転落した、とかの方がわかりやすかったのでは?」と言ってのけたお友達の意見は正しいなと私は思いました。でもこれまた生田先生のロベスピエール・ドリームで、先生は彼をこういう人間だと描きたかったということなのでしょう。つまり悪徳政治家のように言われる彼にも何か事情があったはずだ、というところからこの企画は始まりそこに萌えがありそこに立脚した作品なのでしょうから、それはもう観客としては支持するしかないワケです。
 マクシムの暴走は自分でもどうにもコントロールできないものになっていき、そばで心を痛めていたデムーランは、というかその心優しくしかし強く賢い妻リュシルは、ダントンを呼び戻そうと言う。親友の言葉なら届くかもしれない、と期待して。言い出す役回りをリュシルに与える生田先生がまたすごいと私は思う。マクシムに「こっちへ来い」と言われて「嫌よ」と答えるマリー=アンヌを描けるところもすごい。男性主人公がヒロインに拒否されるシチュエーションなんか思いもつなかい、という男性作家も多いと思うのですよ。でも生田先生は描けるし、なんならそんな男性主人公に萌えているんだよね(笑)。なので性差別主義者ではないというより単なる性癖の問題なのかもしれないけれど(オイ)でも認めたい、評価したいです。
 性癖と言えばマクシムのスカートめくり場面もそうで、あんなのホント普通なかなか思いつかないと思うのですよ。すごいな生田クン。からのダントンとの一騎討ち展開、せつないよね…そして咲ちゃんは本当にがんばっていましたよね。もう一段階低い声が出せるといいんだろうけどなあ、だいぶ無理して作っている感じだったけれどでもあれが限界だよねえ。本質的にはニンではないと思う、でもすごくちゃんとやっていて、だいもんマクシム姫の相手役としてまた組の二番手スターとして、すごく毅然と立って見せていて感心しました。
 ダントン邸の食事の場面もいいですよね、まあ実際には食事はしていないのだけれど。でも美味しいもの食べてお酒もちょっと飲んであったまったところで腹割って話そうぜ、というのはコミュニケーションの基本なんだと思うんですよ。でもマクシムにはそれができない。そのかたくなさ、幼さ、幼稚な潔癖さが悲しい。そんな人だったっけ?というやや唐突な感じはあるんだけれど、だいもんが追い込まれ狭量になり神経質にかつヒステリックになっているマクシムをまたうまく演じて見せています。
 マクシムの理論は正しそうに聞こえるけれど、喜びを知らない者が人に喜びを与えることなんできない、というダントンの言葉もまた正しい。平行なままの論争、いい仕事をする柱時計の音、「こっちへ来いよ」のBL展開が今ひとつハマらないのもまたたまらん。すぐさま踏み込んでくるサン=ジュストと「アデュー、モナミ」までの美しい流れ、名場面です。
「次はどうします?」なんてキラキラした目で聞かれて、マクシムはますます追い込まれていきます。そして至高の存在の祭典、そのショーアップ化がまた素晴らしい。アンヌ=マリーが逮捕され、下手端にへたりこむ情けなくも哀れなマクシムの姿に、生田クンの性癖ここに極まれり…!と私は震撼しましたね。例えば『王家に捧ぐ歌』でヒロインが「アイーダの信念」を歌い出すときのポジションやポーズがこれですよ、これは絶望したヒロインがやる所作なんですよ。それをここでだいもんにやらせるそのドリームね…! もしかしてカッコいいトップスターが見たい!というタイプのファンには拒否反応を起こされても仕方がないのではなかろうかと心配になるくらい私は震撼しました。でもだいもんはもちろん悲愴さを上手く演じ歌い盛り上げ泣かせ、哀れだねかわいそうだねという観客の同情を呼び込めていたと思います。すごい。
 テルミトールの議会でついにマクシムが告発され、投獄され、収監されていたマリー=アンヌと再会し…ここのやりとりも素晴らしい。家族を、恋人を二度奪ったロベスピエールが憎いと訴えるマリー=アンヌも、あなたを愛してしまったことは真実だと言うマリー=アンヌも。そして革命などなかったら出会ってすらいなかったと言えるマリー=アンヌも。それを認められるマクシムも…これが書ける生田先生がすごい。
 そして『愛革』の悪夢を払拭するラストの展開が素晴らしい。そうよ、心中なんて意味ないよ、マリー=アンヌは釈放されるべきですよ、無罪なんだから。マクシムは彼女を抱きしめ、キスし、そして彼女の背中を押して牢を出し、光あふれる未来に向けて歩ませる。そして自分はゆっくり、断頭台に向かう。その先が明るいのは、何故だろう? 「ひかりふる路」とはなんだったのだろう…?
 お披露目なのに、白い服着てセリ上がってスモークの中天国ダンス…なんてことは一切せずに、幕。そのしょっぱさが、潔さが素晴らしい。だってこれが描きたかったんだもんね? このロベスピエールの生きざまは存分に描けたもんね? これ以上の甘さや感傷は不必要なんだもんね? その意気やよし、です。
 私は好きです。イケコによく学んだグランド・ミュージカルをきちんとものにし踏襲し、著名な作曲家の素晴らしい楽曲にも恵まれ、何より実力と華と個性ある生徒たちに恵まれ、きちんと活用してひとつの立派な結果を出したと思います。
 緩急がなかったり、笑えるところや肩の力が抜けるところがなかったり、展開が急だったり雑で乱暴だったりするところももちろんあるとは思います。それでも私は近年のオリジナル作品(もととなる史実があるとはいえ)の中ではかなり高レベルの作品だと思いました。くーみんの『神土地』とかは、ちゃんとしてるのがあたりまえとか思っちゃうかですよね、だってくーみんですからね。というかとの男性社会で活躍できている女性はそりゃそもそもレベルが高いに決まっています。でも男性でこれだけできたってことが失礼ながら意外だったし、でも嬉しい驚きでしたよ。『Shakespeare』もよかったけれど、そこからもまたひとつ進化できていると思いました。まあ生田先生の場合はマッチョでないとか性差別的でないとかより単に萌えポイントが観客のそれと大きく外れていないのかもしれない、というところが大きいのかもしれないけれど、とにかくやりたいことがあってそれを作品として成立させるためにキャラクターやストーリーをある程度の整合性を持たせて組めて歌や踊りを適正に入れられてミュージカルとして仕上げられるだけの技量やセンスや良識がちゃんとあるってことですよ。それが素晴らしいってことですよ。「ナチス台頭下のベルリン映画界の群像劇」みたいなお題目以上の何かなんかまるでなかった『ベルリン、わが愛』と同じ90分とか信じられない密度の差でしたよね…甘いかもしれないがここは褒めて伸ばしていきたいです。ホント何様だよですみません。

 脚本がいいのはもちろん音楽の良さもとうてい見過ごせないもので、作曲家の育成も早急になんとかしていただきたいものですけれどね。宝塚歌劇の、というか日本のミュージカルの大きな弱点のひとつが楽曲の貧困さだと私は思っているのです。海外の作曲家に頼らなきゃいけないうちは、海外ミュージカルの輸入翻案の方がいいねっていうのと同じです。オリジナルでがんばろうよ、そして輸出していく意気込みでいこうよ。てか『眠らない男』の営業してるの劇団? やんなきゃダメだよ? ここから海外へ、ってぶちかましたじゃん!
 それはともかく、だいもん、きぃちゃん、改めてトップお披露目おめでとうございました。咲ちゃんの健闘が嬉しいしあーさの加入は大きいし、今は割を食って見えてもここからどうにかするのがひとこだと思っているし、ナギショは別格として仕事をしていけばいいと思うしまなはるあすくんカリもいい仕事をしていくだろうし、あやなは芝居はまあしどころなかったかもしれないけれどこれまた楽しみしかありません。
 そうそう、大劇場新公も観られたのですが、初主演コンビが大健闘だったのが印象的でした。あやなの舞台映え、素直さ、伸びやかさ、明るく温かなオーラはスターの証。そして潤花ちゃんが歌も芝居もすごくがんばっていてできていてよかった。すわっちやサウザンくんも伸び盛りですよね、光あふれる未来しか見えません。楽しみです。

 レヴュー・スペクタキュラ―の作・演出は野口幸作。
 お友達が「スターにはゴンドラが似合うタイプとそうでないタイプがいるので、前回のベニーはいいが今回のだいもんはあかん」みたいなことを言っていたのが至言だなと思ったのですが(笑)まあお披露目だしお祝いだし似合わないことでも堂々やってのけるしかないのがトップスターというものです。痒い歌詞もやたら上手く朗々と歌われると一周回ってなんかおもしろくなっちゃうし、ずっと奥歯を噛み締めつつもニヤニヤしちゃうという楽しい観劇になりました。
 とはいえ男役の女装祭りが多くて、トップ娘役をちゃんと使っているならそれでもいいけど(中堅や若手の娘役は銀橋に出したり少人数口で起用したり、ちゃんと活躍させられているのになー)そうでないならテティスくらいはきぃちゃんでよかったと思うぞ。あとあーさの相手もナギショでよかったのでは? つまりだいもんの相手は常にきぃちゃんってのが基本なはずでしょうトップコンビなんだからましてお披露目公演なんだから、何年もたって目先変えてみましたっていうときまでこういう企画は待てよと言いたい、ってことです。
 あとデュエダンが短くてほとんど踊っていないのが残念でした。あと日記場面の映像はいらない気がしました。サヨナラ公演っぽさはそんなには感じませんでしたし、なんならサヨナラ公演でまた同じことやるのもおもしろいかもねと思いましたが。
 マスゲームは昔のMGM映画にあるイメージで特に目新しくありませんでしたが、今の日本の舞台で生で大人数でこんなふうにやるところは他にはないだろうからその意味では斬新だったかもしれません。ただ全体に帽子の場面が多くて下級生ファンは識別に苦労するとも聞いたので、シルクハットに燕尾にケーンという様式美はもちろんわかりますが、それにしても工夫が欲しかったところかもしれません。
 それと、ここで大階段を出したからにはここからがフィナーレだと思います。つまり暴風雪の位置がおかしいと思う。場面そのものも私はこういうノリのものはテレちゃってダメなんですが(単にイキった若いだけのオラオラした男が見たいならよそに行きます、外に腐るほどいます。私が男役に求めているのはそういうものではないのです)、好きな人は好きだろうし新機軸だと楽しむ人も多いだろうのでそれは文句は言いません。でも口パクは止めてくれ。歌っているのかもしれないけれど録音にかぶせているでしょう? それにあんなにエフェクトかけていたらそれはもはや生歌とは言えないでしょう。生でがんばってきたのが宝塚歌劇なんだから、安易にやっちゃだめだと思いますよ? ホントに…
 それにしてもララランド場面(そんな名前ではありませんが)は素晴らしかったですね、団体賞候補ですよね。ひらめのスカートさばきの美しいこと、肩と背中の柔らかさの美しいこと! ここのひとこはチギちゃんそっくりに見えたなあ、ちょっと痩せすぎが心配なくらいシャープになって、上手い! そしてサウザンくんも本当に垢抜けてきました。しかし咲奈だよ咲奈ホント素晴らしかったよ惚れるよ!!! 振り付けは三井聡。
 そしてどこでもここでも「こんな位置で踊らせてもらっていていいの!?」というあやなの上げっぷりな…! イヤできる子だしいいんですよ、そのための組替えですからね。それにちゃんと応えているとも思いましたしね。でも震撼しましたよね、ラインナップでは全然外だもんねー。でも期待しています、好きです(告白)。

 考えれば考えるほど次の『凱旋門』の主人公はだいもんとイシちゃんの役替わりにしてくださいよとしか思えませんが…とりあえず今は、新生雪組の素晴らしい船出を祝って終わりとしておきます。しかし手漕ぎボートはないやろ、豪華客船でいこう!(笑)








コメント (2)
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