駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

西尾雄太『アフターアワーズ』(小学館ヒバナコミックス全3巻)

2018年01月18日 | 乱読記/書名あ行
 気乗りしないままやってきた渋谷のクラブで、不思議なお姉さん・ケイと出会ったエミ。ミラーボールの下でしゃべって、呑んで、気づけばケイの部屋のベッドで一緒に寝ていて、しかも「VJをやってもらいます」って、VJって何!? キラキラとトキメキのガールミーツガ―ル青春譜。

 理想の…とまではいかないまでも、好みの、萌える百合を探す旅は地味に続けていて、それで読んでいたのですが…期待していたのですが…うーん、題材は揃っている気がしたのに、もったいない。
 出会ってしゃべって気が合って、飲み直そうって言われて外に出て、そのまま家に上げてもらって泊めてもらうことになって、しちゃって…というのはアリな流れだと思うのですよ。で、翌朝、相手がものすごく自然で何事もなかったかのようだし、自分もテレるのでとりあえずなかったこととしてまずは単なる友達としてのおつきあいからすることにして…ってのもわかる。
 でもそのあとどこかで、エミが自分のセクシュアリティの揺らぎに不安を感じたりケイのセクシュアリティに疑問を感じたり、って展開が普通あるべきでは? 立ち止まって悩むくだりがあるはずでは? だって今までエミは異性としかつきあったことがなくて、今も男子の恋人と半同棲みたいな状態なんでしょう? 自分にそのケがあるなんて考えたこともなかったんじゃないの? それともそうではないということなの? そこがあいまいで、なので読者はエミに感情移入しきれないのだと思うのです。だって流されてしちゃうことはあるにしても、そのあと立ち止まって慌てるような描写がなく、ただただそのまま流されていっているので、この子にとってはこれって普通のことなの? なら私とは違うな…と読者は混乱しちゃうんだと思うのです。
 読者は異性愛者で、というか自分を異性愛者だと思っていて、疑ったことすらないくらいで、でもこんなふうに素敵な同棲と出会ってコトに及んじゃったらそのときどうなっちゃうんだろう?って夢想し期待しながらこの話を読んでいるんだと思うんですよ。少なくとも私はそうです。あ、この作品は掲載誌からして想定される読者は男性なのかもしれませんが、ヒロインが女性なんだから女性になったつもりで読むものじゃないですか。というか女性ってこうなのかな?と思いながら読んだり、自分と同じ男性同士での話に変換して読んだり、とにかく「同性同士」ということにある種のこだわりを持って読むはずなんですよね。
 でもこのヒロインはそこにはとんど戸惑いもせずに進んでいくので、そんなのおかしいじゃん、そんなはずないじゃん、そこには葛藤とか悩みとかがもっとあるはずで、そこをどう乗り越えていくかってドラマが見たいんじゃん…と、私は思ってしまったのでした。
 ケイに関しても、レズビアンなのかはたまた今回の恋愛がたまたまなのかとか、異性との交際経験はあるのかとか、全然説明がされません。でもそういうことをクリアにしてからでないと私は先に進めない。だって普通気になるじゃん? 好きになった人の過去とか、なんで自分を好きになってくれたのか、とか問い質したりしちゃうものじゃん。そういうくだりがほとんどないというのはおかしいと思うんですよね…結局自分たちとは感覚が違う真性レズビアン(というものがあるとして)の話ってことなの?ってなっちゃうもん。でもそうじゃないはずなんですよね、そこがもったいない。
 また、ふたりには年齢差や社会経験差がある設定になっていて、そこがつきあう際にいい方に出たり逆にネックになったりというドラマがもっとあるはずなんだけれど、そんな展開が特になく、せっかくの設定が生かされていない気がしました。オトナで余裕ありげに見えるケイの方が実は引け目を感じていて…とか、ベタだけど、なんかイロイロあるはずじゃないですか。そういう展開は全然ない。ないなら別のドラマを仕立ててくればいいんだけど、それもないので肩すかしなのです。
 クラブを仕切る、レイヴを開催する、というイベントもの、青春もの、音楽ものとしての側面はまあまあがんばっている気がするのだけれど、歴代の音楽を扱った傑作漫画の足下には残念ながら及べていないかな、という印象です。そういう漫画は音や色を本当に感じさせられるものなんですけれどねー。でもこれは私がそもそも音楽とかクラブシーンに疎いからかもしれません。クラブ通いを常としている若い読者には響く表現とかがちゃんとされているのかもしれない、だとしたら読み取れずすみませんでした。
 後半で急転直下、ケイが実家に帰らざるをえなくなって…なんて展開は、みんながみんないつまでも若くないし都会で暮らしていくのも大変だし人生考えなきゃいけないし、というとても深くて重大でリアリティのあるおもしろいテーマなので、もっともっと掘り下げて描いてほしかったです。
 あーん、ホントいろいろもったいない作品だったなー。絵は可愛いしネームもちゃんとしてるのになー。連載していた雑誌が途中で休刊しちゃったこととは別に、人気なかったのかなー。もったいないなー。
 また旅は続けます…



コメント
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