いつかは売れっ子ミュージシャンになることを夢見ているジョン(ドーナル・グリーソン)。ある日、行きがかり上、あるバンドの自殺未遂したメンバーの代理を務めることになったジョンは、そこで素晴らしい才能を持ったバンドリーダーのフランクに出会う。
が、このフランク、精神的な疾患(?)から、いかなる時も素顔をさらすことが出来ずに、妙なハリボテの被り物をしているのだった。バンドのメンバーでさえ、彼の素顔を見たことがないという。
そのバンド、レコーディングにのための合宿(?)に、ジョンを代理のまま連れて行く。ジョンが入ってきたことで、それまで保たれてきたバンドのバランスが崩壊し始める。そして、遂に、フランクは、名実ともに壊れてしまう。
うーーん、正直、こういうのは苦手。
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もうね、お分かりだと思いますが、フランクを始め、バンドメンバーは皆、メンタルに問題を抱えた人ばかりです。バンド自体が病んでいるのです。当然、奏でる音楽も、何だかなぁ、、、というものばかり。正直、このバンドの音楽で、唯一聴けたのはラストの音楽だけでした、私は。後はもう、良さがさっぱり分からない。
ジョンは夢はあるけど才能がまるでナシ男くんなんです。でも、彼は精神的には健全というか、いわゆる常識人、フツーにイイ人。一方、フランクは、大それた夢なんか持っていないけど才能は一応ある。飽くまでも“一応”ね。世間を見渡せばフランク程度の才人は掃いて捨てるほどいるんだけれど、ジョンにはフランクはちょっと眩しく映る。バンドメンバーからも、フランクは一目置かれている。
言ってみれば、このバンドは、もの凄く“閉じたバンド”なんです。精神的に病んだ人たちが自分たちの世界に引きこもって、自己完結しているグループ。
そんなところへ、常識人で悪意なきイイ人であるジョンが闖入してしまったものだから、ちょっとヤバいことに。
閉じたバンドで満足していたのに、ジョンがマトモに「売れること」を考えてあれこれ提案したり、才能もないのに自作曲を披露したり、、、。バンドメンバーにしてみりゃ、ウザいことこの上ないでしょうねぇ、、、。こういう悪意なく人を不快にさせるイイ人って、いるもんなぁ。まあ、一種のKYでしょう。
でも、ジョンからしてみれば、このバンドの人たちこそ“おかしい”わけです。なぜもっと、表現者として表現者らしく他者に働き掛けないのか? という“アタリマエ”な疑問を抱き、それをちゃんと深く考えもせずに、“これじゃダメでしょ。もっとアピールしなきゃ、もっとウケる音楽作らなきゃ”と勝手に結論を出して、バンドメンバーに熱く訴える。だって、そーでしょ? フツー、売れること考えるでしょ? 何でアンタらそんな自己マンなことしてんの? 、、、てな感じじゃないでしょうかね、ジョンの本心は。本気で疑問に思って、本気でバンドを改革しようとしているのです。
途中、合宿中に、曲が出来上がって皆が盛り上がった翌朝に、バンドメンバーの1人が自殺しちゃうんですよねぇ。ドンという名前の男の人。このドンが、そもそもジョンをバンドに誘ったんですけれど。しかも、ドンは、フランクの被り物を被って首吊ってるんです(どうやら、フランクの被り物は複数あるみたい)。だから、最初は、フランクが自殺しちゃったのか!? と観客も驚いちゃうんですが、、、。でも、ドンが自殺した理由はイマイチ分からない。おまけに、ドンを勝手に火葬しちゃうんですよ、この人たち。それって、死体遺棄で犯罪じゃないのか・・・?
それはともかく、なんと、悪いことに、フランク自らが、ジョンの影響を受けて、閉じた世界を自ら壊してしまうのですね。バンドが世間に認知されることを夢見てしまうのです。でも、、、、そんなの広い世界じゃ虫けらみたいなもんだと思い知らされるだけ。結局、自分に跳ね返って来てしまう。フランク自身、被り物が壊れて、逃げ出してしまうことに、、、。
終盤、被り物を外したフランク(マイケル・ファスベンダー)が、ちりぢりになったバンドメンバーの下へ戻ってきて、イカレた歌を絶叫するんですが、、、。ここでようやく、ジョンは、自分のやっていたことがお門違いも甚だしかったことを思い知り、そっと皆の所から去って行くわけですね。
まあ、フランクは、思いがけない外的要因で、被り物を脱ぐハメになったんですが、それで結局、殻を破ったことにはなっていないのでしょうね、多分。別に、殻を破る必要はないだろうし、ああいう、閉じた世界で自己完結していることが悪いとも思いません。でも、なんか、私は本作はダメでした。
まず、2人も自殺(or自殺未遂)する、っていうシナリオが、、、。それも、何が理由かよく分からない自殺です。私、自殺はどうしても生理的に受け入れられないものがありまして、、、。病んだ人たちの閉じたバンド、ってことで、こういうシナリオならちょっと安易すぎる気がするんですよねぇ。
そして、最大のネガポイントは、フランクその人の人物造形です。被っちゃった原因がハッキリしないのは、まあよしとして、なんというか、被っているときのフランクの性格は、ものすごく尊大&不遜な感じで、被り物の顔がさらにそれを増幅しているように見え、こう言っちゃなんですが、私はあの顔のハリボテを蹴っ飛ばしてやりたくなったのです。フランクの病気がどういうものかハッキリ分からないけど、「てめぇ、甘えてんじゃねえ~~!!」とね。
多分、それって一番こういう人たちに言っちゃいけない言葉だと思います。
しかし、フランクは、自分の顔を晒すのが怖い代わりに、あのハリボテを被り、皆の注目を浴びるのは、むしろ快感だったのではないでしょうか。つまり、あのハリボテは、彼の自己顕示欲そのもの、ということです。自己顕示欲を隠そうともしないのは、ある意味、正直で結構ですが、裏を返せば駄々をこねて周囲を困惑させているだけのオコチャマだ、ってことです。
ちょっと前に、春日武彦の「自己愛な人たち」という本を読んだんですけど、もう、まさにフランクそのもの。自己愛のない人などいませんが、あり過ぎると病気になります。自己愛の塊が、あのハリボテなわけです。途中からもう、だんだん見ていて恥ずかしいやら、いたたまれないやら、、、って感じになってしまいました。
大体、被り物のせいで流動食しか摂れない男が、何であんなにイイ身体してんのさ。筋肉ムキムキで、おかしくないか? 筋トレしているシーンもあったけど、もしあれが流動食+筋トレの賜物だとしたら、やっぱりフランクは自己愛廚なオコチャマオヤジってことで決定です。
、、、しかし! な、なんと、、、本作を見終わった後に、ネットで、本作をハルキーが絶賛しているとの記事を見つけまして、つくづく、私は村上春樹とは相性が悪いと改めて思いました。別に私の感性との相性が悪かろうが、彼にとっては屁でもないわけで、どーでも良いんですけど。まあ、彼の小説も、自己愛の塊だもんなぁ、、、。
最後に、春日氏の本の一部から、、、。
~~~自己愛は呆れるばかりに強固であると同時に不安定で、日光を浴びたドラキュラのように脆くもあり、また、身体の一部を切り取られても再生するプラナリアのように「したたか」でもある~~~by春日武彦『自己愛な人たち』(講談社現代新書)より抜粋。
自己愛、、、この厄介なるもの。
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フランク、何だかもう懐かしい感じの映画!
そうそう!ジョンみたいな人、いますよね~。ああいう悪意はない、善意を押し付けてくる人、迷惑ですよね~。
フランクたちのバンド、あの閉じた感じで楽しそうにやってたのが、何だか微笑ましかったな~。死んだ仲間を火葬してたのには吃驚!確かに死体遺棄(笑)。
マイケル・ファスベンダー、好きなんですよ~。来年は「スティーブ・ジョブ」と「マクベス」が日本でも公開されるので楽しみ♪
村上春樹氏の小説、読んだことない私って非国民でしょうか?こないだ古本屋に行ったら、長門ひろゆきの暴露本「洋子へ…」があったので、買おうか買うまいか迷ったけど、結局買わなかったです…読書の秋したいです。
マクベスご出演なんすか? そりゃあ、見なくっちゃ!ですよね。ああいう、正統派の美男子が演じたら、さぞや見応えのあるマクベスになることでせう
春樹、私も、アンダーグラウンドを読んで、決定的にアレルギーになってしまい、以降、読む気になれません。なので私も立派な非国民でございます。初期作品では、受け身で自己愛廚な男と、そんな男にとって都合のいい女の話ばっかでキモかったんですけど、今は変わったんですかねぇ。ノーベル賞の時期にメディアが騒いでるのが鬱陶しくて仕方ないです。
長門さんかぁ…。妻を晒し者にする夫、っていうイメージなんですけど、本読んだら見方変わりますかね?
読書の秋、何かオススメの本ありましたら是非教えてください~~!