映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ナポリの隣人(2017年)

2019-03-03 | 【な】



 イタリア南部ナポリのアパートに独り暮らすロレンツォは、かつては“無敵”の弁護士だった。とはいえ、土地柄か決して清廉潔白な仕事ぶりだったわけではない。今は、老いて引退し、数年前には妻を亡くし、娘と息子がいるもののどちらとも折り合いが悪いため、以前は家族で暮らしていたアパートの半分を手放し、残りの半分に独りで暮らしていた。それでも、独りで暮らすには広すぎる家だった。

 ある日、入院していた病院を抜け出しアパートに帰ってくると、手放した方の家の玄関前に見慣れない女性が座っている。彼女はミケーラと名乗り、鍵を家の中に忘れて閉め出されたのだという。ベランダが向かいの家とつながっていることから、ロレンツォは彼女を自宅に招き入れ、無事女性は自宅に入れた。次第に、ロレンツォとミケーラ一家は親しくなる。ベランダで夫のファビオと顔を合わせ、2人の子供たちがロレンツォの家にベランダから侵入して来ることも。

 特にミケーラとは打ち解けるロレンツォだったが、週末に、一家の食事に誘われる。そこでは、子供たちには祖父のように慕われ、ミケーラとファビオ夫婦の仲の良さを目の当たりにし、ロレンツォは心が和む。

 しかし、雨が降る晩、アパートに帰ってくると、そこには救急車やパトカーが留まり、騒然としている。悪い予感がし、慌ててアパートの階段を駆け上がるロレンツォだったが、、、。

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 岩波ホールは、サービスデーがなくて、1日の映画の日に割引になるので、先日行ってまいりました。


◆肉親より他人の方が、、、

 ロレンツォが娘や息子と折り合いが悪いのは、まあ、ハッキリ言って100%ロレンツォに原因がある。つまり、妻の生前、妻の留守中に愛人を自宅に引っ張り込んでいたのである。しかも妻はそのことが原因で心身を病んで、間もなく亡くなっている。もちろん、それだけではない。基本的に仕事人間で家庭をあまり顧みない男だった様子。弁護士としては清濁併せのむ有能ぶりを発揮していたらしいが、夫として父としてはダメダメだったということらしい。

 そんなロレンツォが隣家のミケーラたちとは打ち解けるのだが、他人の方が良い関係が築けるというのはよくある話。本作も、ミケーラ一家との交流を通じて家族の良さに気付いたロレンツォが、娘や息子たちとの関係を再構築する物語か、、、と思いきや、まったく予想外の展開になる。

 ~ここからネタバレになりますのであしからず~

 ミケーラの夫、ファビオが妻と子供を撃って、自分も自殺してしまうのである。

 ファビオは、ちょっと危なっかしいなぁ、、、という感じは最初からしていた。実際、その後、そういう描写もいくつかあったので、意外な展開とは言え、あの夫ならやりかねない、、、というヘンな納得感はある。

 実は、ミケーラもファビオも、ちょっとワケありなのだ。ミケーラは両親に育児放棄されて施設で育っている。ファビオは、幼い頃、金で友情を買うような子供で、親友が崖から落ちて大けがをした際には「ボクが突き落とした」と母親に打ち明け、それを聞いて驚いた両親は、必死でその事実がバレないようにすることでファビオを守ってきたのだが、大学生になったある日「あれはウソだったんだよ」等とケロッと言ったというのである。

 何となく、ミケーラとファビオは仲が良さげだけど、ぎこちない夫婦という感じだったんだよなぁ。この“仲が良さげ”ってのがクセモノで。仲の良い夫婦って、どんなんなんでしょうか。一見、喧嘩ばかりしていて仲が悪そうな夫婦が、実は案外お互い理解し合っていたりすることもあり、、、。喧嘩したことがない夫婦が仲が良いとは限らないし。夫婦の片方が“自分たちは仲が良い”と思っていても、もう片方が同じように思っているかは分からない。夫婦といえども、心の内は“本人のみぞ知る”なのだ。

 ファビオが突然の凶行に出た理由は描かれていないから分からないけど、まぁ、ちょっと病んでいたんだろうね。ロレンツォがミケーラに心の内を少し明かしたことで楽になったように、ファビオもロレンツォに心の内を少しでも打ち明けていれば、最悪の事態にはならずに済んだのかも知れない。やっぱり、ホントに深刻なコトは、身近すぎる人には却って話しにくいものだから。信頼できそうな他人の方が、客観的に物事を見られて、冷静な言葉を発してくれそうである。まぁ、却って悪い結果になることもあり得るけど。

 子供たちはすぐに亡くなるが、ミケーラは一命を取り留め、病院で意識がないまま救命措置がとられる。ロレンツォは、ミケーラを自分の娘と偽って、毎日見舞いに行き、語りかける。そして、妻への贖罪の気持ちを口にしたとき、ミケーラは目を開けるのだ。このシーンはギョッとなる。

 驚くロレンツォは医者に報告しに行くが、医者がミケーラを診ると、ゼンゼン反応のないまま。あれはロレンツォの幻想だったのか、、、。


◆再生する可能性はあるか。

 ロレンツォは、ミケーラとアカの他人だとバレて、病院から出入り禁止を言われる。その際、警察のお世話にもなり、身柄を引き受けに来たのは娘のエレナだった。ここから、ロレンツォとエレナが父娘の関係を見直していく過程が描かれていく。

 結局ミケーラが亡くなったことで、ロレンツォがしばし放浪というか行方不明になり、エレナが探し回って、最終的に父と娘は会い、和解を臭わせるシーンで終わる。

 そのシーンが……ロレンツォが隣に座るエレナの手に、そっと手を伸ばして、2人が手を握り合う、、、というものなんだけど、うーん、これはどうなんでしょ。私なら、エレナから手を握りに行くシーンにするかな、と思った。あんな頑固爺ぃのロレンツォが、あんな風にするかな、、、というのもあるし、やっぱり、あれだけ心配して元愛人のところにまで父親を探しに行ったエレナの方から、ホッとして手を握りに行くのじゃないかな、、、という気がするから。そして、エレナに手を握られて、ロレンツォが握り返す、、、という方が、私としては感動するかも。

 まあ、どちらにしても、和解の兆しが見えたエンディングで、救われるのだから良いけれど。

 詰まるところ、家族の崩壊と再生ってことなんだろうけど、家族が幸せで素晴らしい一辺倒ではないという現実を描いているのは良いと思う。私は、家族とか血縁に懐疑的だけど、だからといって、家族を否定する気は全くない。やはり、肉親というのは、ある意味、不可分であるからこそ崩壊しても再生があり得るのだ。これがアカの他人なら、再生する必然性もないわけで。

 私も親と15年断絶しているが、実は、少し前から、親も老いていることだし、このままで果たしてよいのだろうか、、、、とボンヤリ思うことはあった。曲がりなりにも親子なわけだし。かといって、何か具体的に関係修復をしようなどという気にはさらさらならなかったけれども、少なくとも現状がベストではないという認識はあった。そんなある日、今年の年明けすぐくらいのある朝、出勤の支度をしていたら、突然家の電話が鳴り、しかも表示の番号は見知らぬ携帯電話。何か良からぬことでもあったのか、と思い「もしもし?」と出てみるが、反応はなく、人の会話の声が聞こえてくるではないか。そして、それが、母親と父親の声だと気付くのに時間はかからなかった。なぜなら、母親が父親を詰っていたからだ。朝っぱらから、母親は父親に文句を言っている、しかもその話しぶりは、私が嫌で仕方がなかったあの口調のまんまである。父親の反論する声は聞こえるが、離れているからか何を言っているのかは分からない。多分、母親がスマホの画面に触れたか何かで、間違って私の家の電話にかかったのだろう。そうとは知らずに、2人は話していたのだ。……30秒ほど聞いていたが、いたたまれなくなりそのまま黙って切った。その後、あちらからかけ直しても来ていない。

 それで、ああ、あの人は1ミリも変わっていないんだと改めて思い知り、愕然となった。老いて多少は弱って丸くなっているかもなどと思った私は大アホだ。良かった、何も具体的な行動を起こさなくて、、、。やっぱり、あの人と関わるとロクなことはないのだ。かと言って、父親に同情する気にもなれない。

 だから、私は、エレナのように、親が行方不明になって必死で探し回る、なんてことは出来ないだろうな、、、と思いながらスクリーンを眺めていた。というか、こんな風に、心配して駆けずり回るエレナが、正直、ちょっと羨ましくなっていた。私もあんな風に我を忘れて親を捜し回れたらなぁ、、、と。そう出来ないことが予見できる自分が、何だか情けなく、哀しかった。

 ロレンツォは、エレナ(シングルマザー)の息子、つまり孫を時々学校から連れ出して、2人の時間を持っていた。しかし、孫にも決して好かれてはおらず、「早く学校に戻りたい」などと言われる。終盤になると、孫に「うちに来て暮らせば、やりたいことが出来るよ」などといって、孫に一緒に暮らそうと提案している。つまり、ロレンツォは実は元々血の繋がりを求めていたのだ。

 だから、きっと、この後はエレナと父娘の関係を徐々に修復していくだろう。そして、娘と孫には看取られて旅立つことが出来るのではないか。そんな“家族の良さ”を感じられる作品だった。

 ちなみに、ヤマザキマリ氏と佐々木俊尚氏による本作についての対談の記事がネット上にあって、へぇ~と思った部分もあったので、参考までにリンクを貼っておきます。







見終わってみると、オープニングの歌詞が重い、、、。




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