映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

ナチスに仕掛けたチェスゲーム(2021年)

2023-08-12 | 【な】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv81599/


以下、公式HPよりあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。

=====ここから。
 
 ロッテルダム港を出発し、アメリカへと向かう豪華客船。ヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ)は久しぶりに再会した妻と船に乗り込む。

 かつてウィーンで公証人を務めていたバルトークは、ヒトラー率いるドイツがオーストリアを併合した時にナチスに連行され、彼が管理する貴族の莫大な資産の預金番号を教えろと迫られた。それを拒絶したバルトークは、ホテルに監禁されるという過去を抱えていた。

 船内ではチェスの大会が開かれ、世界王者が船の乗客全員と戦っていた。船のオーナーにアドバイスを与え、引き分けまで持ち込んだバルトークは、彼から王者との一騎打ちを依頼される。

 バルトークがチェスに強いのは、監禁中に書物を求めるも無視され、監視の目を潜り抜け盗んだ1冊の本がチェスのルールブックだったのだ。仕方なく熟読を重ねた結果、すべての手を暗唱できるまでになった。

 その後、バルトークは、どうやってナチスの手から逃れたのか? 王者との白熱の試合の行方と共に、衝撃の真実が明かされる──。

=====ここまで。

 シュテファン・ツヴァイクの小説「チェスの話」が原作。


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 オリヴァー・マスッチのこと、地味にお気に入りなんです。なので、本作は公開前から楽しみにしていたのですが、何しろこの暑さ、、、の上に、公開劇場が都内では新宿の1館だけという超冷遇。ま、公開されただけマシですが。

 夏休みは話題作がいっぱい公開されるのが常なので、そら、このテの作品はこんな扱いされても仕方ないんでしょうけど、都内で1館て、、、あんまりじゃない?? だって、この映画、多分、何度見にも耐える格調高い文芸作品で、しかも見ていて頭フル回転で使う、素晴らしい映画でしたよ。こんなヒドい扱いで終わらせるなんてもったいないと思うのですが。

~~以下、ネタバレしておりますのでよろしくお願いします。~~


◆尋問とチェスの試合

 ……と、前振りで褒めておいてナンなのだが、実は序盤はちょっと退屈かなぁ、と思って見ていた。この日、都心はもの凄い雷雨で劇場内まで雷の轟音が聞こえ響いてくる有様。

 だけど、前半途中、船内でヨーゼフが「昨夜、私は妻と一緒に食事した!」と話すのに対し、船員が「いえ、お客様お一人でした」と答えてヨーゼフが混乱する辺りから、え??となって一気に引き込まれた。

 そこまでは、いわゆる“時系列ゴチャゴチャ系”の構成だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。考えてみれば、彼がホテル・メトロポールで監禁されていた部屋の番号と、船室の番号は同じ。これはもしや、、、。

 原作は未読だが、原作は、チェスと共に、ナチスの行った拷問の一種“特別処理”にもフォーカスした話らしい。特別処理とは、身体的な暴力は加えない代わりに、精神的に追い込むことで、本作では、活字を禁じ、会話も禁じ、食事も同じメニューにし、、、と、とにかく一切の知的活動を禁じられるというもの。これは、一定期間続けば狂うでしょう、間違いなく。

 だが、ヨーゼフは密やかに抵抗していた。同じように監禁されていたある男が飛び降り自殺してしまった騒動のどさくさに紛れて、手に取れた本を1冊盗んでこっそり部屋に持ち込んだ。部屋でそっと広げてみれば、お目当ての小説でなくてガッカリしたが、これがチェスの棋譜を詳細に解説した本で、ヨーゼフは次第にのめり込む。高じて、食事についたパンを捏ねて作った駒と、バスルームの床の模様をチェス盤に見立ててチェスに没頭するように。これで、辛うじて発狂を免れていた。

 けれど、それは長く続くはずもなく、案の定、ある日発覚し、本は没収され、駒は全て破壊され、それを機にヨーゼフの心も破壊されて行く。

 この後、本作は、ヨーゼフがホテルに監禁中に受ける執拗な尋問と、客船内でチェスの世界チャンピオンと闘うゲームを、現実と妄想の境界を敢えて曖昧にしながら進行する。

 チェス駒を破壊された後、ヨーゼフは、本で覚えた棋譜を基に脳内でもう一人の自分とチェスの対戦を延々繰り広げて行ったのだが、それが次第に世界チャンピオンと闘うという想像の世界と融合してしまう、、、というシナリオ。本で覚えた棋譜は、過去の名試合の棋譜ばかりだったこともあるし、ますます監禁の環境が過酷になったこともあったろう、、、とにかく、彼はそれだけ精神的に病んでしまったのだ。

 船内での展開も、最初は、単なる回想シーンとして違和感なく見ていられるのが、次第に、え?えぇ??という感じになり、監禁シーンと交互に描かれることで、だんだん、もしや、と感じていたものが、やはりそうか、、、となっていくのだ。

 で、鑑賞後パンフを見て、尋問するゲシュタポとチェスのチャンピオンを同一人物が演じていると分かって(見ている間は不覚にも気付かなかった)、やはりそうだったのか、と腑に落ちた。


◆妄想?現実?

 結局、ヨーゼフがホテルでの監禁からどうして解放されたのか、、、というのは、ここでは敢えて書かないが、劇場からの帰りにたまたま同じエレベーターに乗り合わせた男女が、原作との違いについて語っていて「原作の、ヨーゼフが発狂して飛び出そうとして怪我をしたため病院送りとなって解放された、、、って方が理にかなっている」という趣旨の話をしていた。女性が「あんなんで解放されるなんておかしい!」としきりに話していたのだが、私はさほどおかしいとも思わなかった。

 これ以上、ヨーゼフを監禁しても目的が果たせないと明らかになった以上、コストを掛けて監禁しているのはムダであるという、人をモノ扱いするナチスらしいやん、、、と私は思ったのだが。殺したって仕方ないしね、、、。

 あと、ネットで、“批評家”を自称する方が、ヨーゼフを“ユダヤ人”と書いていたけど、ユダヤ人なら確実に殺されている(あるいは収容所に送られているか)でしょ。ヨーゼフはオーストリアの貴族という設定で、バルトークという名前から、あるいはハンガリー系なのかも。

 ヨーゼフを尋問するゲシュタポのフランツは、見るからに小者で、ナチスの威を背景にやたらマウントをしてくる男。多分、何も考えていない人。命じられたことを忠実に果たして、自身の地位を上げたいとか、そういうことにしか考えが及ばない。いつでも、どこにでもいる人間だ。パンフによれば、この人物のモデルは親衛隊(SS)のフランツ・ヨーゼフ・フーバーだそう。SSと言えば、「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」(2020)でも書いたが、なるほど、SSとはこういう人間の集まりだったのだなぁ、と改めて思い知る。まさに、組織論理にのみ基づいて動くマシーン。それを、アルブレヒト・シュッヘが巧みに演じている。この人、「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」(2021)のラブーデの人だったのね、、、。

 どこからがヨーゼフの妄想か、、、というのは意見の分かれそうなところ。ネットの感想を拾い読みしたが、客船内~アメリカに渡ったのは全部妄想、という人もいる。私は、客船内は妄想だと思うが、アメリカに渡ったのは現実だったんじゃないのかなぁ、、、と感じた次第。

 ラストがそのアメリカの精神病院と思しき場所でのシーンなんだが、そこで、最愛の妻アンナが出て来る。この人が、看護師としての一人二役なのか、アンナとしてなのか、、、、。私は、アンナ自身だったと思う(願望も入っている)。アンナと二人でアメリカに渡って、愛するアンナに付き添われている、、、と思いたい。原作者のツヴァイクも、妻と二人で亡命したというし、、、。

 マスッチさんは、やっぱり演技巧者。素晴らしい。優雅にウィーンでダンスに興じているときのヨーゼフと、監禁中に脳内チェス対戦に興じるあまり狂っていくヨーゼフの対比が素晴らしい。撮影中は非常にしんどかったとパンフのインタビューにも語っているが、そらそーだろう、、、こんな役。

 何より、このシナリオに唸る。虚実の曖昧さを巧く表現した演出も素晴らしい。監督はフィリップ・シュテルツェル。「アイガー北壁」未見なので見てみたい。原作も面白いらしいので、早速図書館で予約しました。ソフト化されたら(されるよね?してください!)もう一度見たい……(暑過ぎて劇場まで再度行く気力がないのです)。

 

 

 

 

 

 

 


邦題がマズ過ぎる(とりあえず“ナチス”ってつけとけ!みたいの、やめれ)。

 

 

 

 

 

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