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「江戸繁昌記 三編」を読む 35

(近所の側溝沿いのアジサイ、その4)

気温が上がって、いよいよ夏が到来と思われる気候になってきた。ただ、湿気が少ないせいか、爽やかに感じて、気持ちのよい日々である。

この所、昼間は古文書解読、夜中は読書の毎日で、古文書解読に頭を使っているためか、読書の方は、難しい本は敬遠している。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「外宅」の続き。

妾、惶急(あわただ)しく、(目を)(こす)り下りて、これを迎えば、則ちこれ外人(ほかびと)ならず。家翁の醉いて帰るなり。嫗(カヽサン)もまた愕(おどろ)き醒(さ)め、子母、相に與(とも)にこれを慰めて、翁深醉いせり。怒気発越、妻を罵り、子を詈り、碗を抛(なげう)ち、瓶を碎く。厲聲して曰う、汝じら畜生、耳を抉(えぐ)りて聴け。更になお浅し。丙丁(ヤツナナツ)と云うて非ず。乃(すなわ)ち、翁の還るを俟(ま)たず、安閑蓐に上る。熟睡かくの如き、隣り火を失うも、また覚めざらん。嫗(おうな)謝して曰う、吾がのみ(ワタシガワルカツタ)、吾が過のみ。(過を観て、を知る)且(しばら)く、これを密(ひそか)にせよ。
※ 厲聲(れいせい)- 声をはりあげること。声を荒くすること。
※ 安閑(あんかん)- 危急に際して、何もせずぼんやりしているさま。
※ 蓐(じょく)- ねどこ。しとね。
※ 過(か)- あやまち。とが。
※ 仁(じん)- おもいやり。いつくしみ。
※ 過を観て仁を知る -(論語、里仁第四)過を観て、斯(ここ)に仁を知る。


更深(よふ)け、人定る。娘手を使いて天を指し、(予所否者、天厭之低々言う。官(ダンナ)在り、官来れり。翁深醉い、如何ぞ耳に上らん。叱して曰う、我吾が脚を以って、我が家に帰り、我れ吾が手を用いて、我が戸を敲(たた)き、我が物、吾れ毀(やぶ)り、我が理、吾れ説く。誰が半句の不の字を道(い)わん。
※ 予所否者、天厭之 -(論語、雍也第六 26子見南子章)予が否らざる所の者は、天之を厭てん。(意味/わたしに罪があれば、天が見はなす。)
※ 低々(ていてい)- 低いさま。


子母墨々(まじまじ)、只、手を使いて天を指す。(上天の載、無声、無臭)翁、如何ぞ、眼を上げん。曰う、これ何の、為せる所ぞ。我れ、毎日疲困、擂木(すりこぎ)に脚を為して、孜々業に走るに、汝安閑、早く寝(い)ね、晏(おそ)く起く。(翁、毎日疲れ、女、毎夕疲れ、未だ孰(いずれ)か苦を知らず。)女曰う、爺(トツサン)大に醉う。請う、寝に就け。曰う、何々、我飲まず、何に因って醉を致さん。呶々一夕、また罵り、また詈(ののし)る。客堪えず、悄々(コソコソ)梯(てい、=階段)を下り、纔(わずか)に身を抽きて去る。(天遯(にげ)る、臣妾を畜(やしな)えば吉
※ 墨々(まじまじ)- 気遅れして、はっきりした言動がとれないでいるさま。もじもじ。
※ 疲困(ひこん)- 疲労困憊。
※ 孜々(しし)- 熱心に努め励むさま。
※ 呶々(どど)- くどくど言うこと。
※ 悄々(しょうしょう)- 元気のないさま。
※ 天遯矣、畜臣妾吉 - (易経より)


読書:「肖像彫刻家」 篠田節子 著
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