平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
「旅硯振袖日記 下之巻」 10
昨日と同じ位置からの写真、アップにしないとこの通り。
50年前、城北公園のすぐ近くに4年住んでいた。下宿の2階から見ていた富士山が、ちょうど同じように見えたはずだが、記憶に残っていない。しかし、城北公園からの富士山を何度もカメラに収めるのは、懐かしむ気持ちがあるからかもしれない。ふと、そんなことを思った。
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「旅硯振袖日記 下之巻」の解読を続ける。
「この世、あの世と二世かけて、夫婦にはおれが仲人、心残さず成仏せよ。されども夕(よん)べ約束の、己が望みはこの娘、親と親とが許婚、二世の縁をば結べども、家の悩みに婚姻せず。男を思うて憂き旅の、難儀重ねし貞女ぞと、言うも愚かな親心、嫁の土産に象潟を、身請けまでして婿殿に、贈りし甲斐も情けなや、父、子を守るこのありさま」と、語る所へ高大尽、表のくゞし戸、急がわしく開けて、この家へ入り来たり。
※ くぐし戸(くぐしど)- くぐり戸。
両のまぶたを摺り赤め、どっかと座をしめ語るよう、
「おの/\衆、由(よし)聞き給え。高大尽とて、象潟がもとへ通いし我こそは、鎌倉殿の身内人、皷の判官音高なり。平家の残党詮議のため、忍びて浪花に登り来て、人立ち繁き神崎、江口、ふと象潟が色に迷い、通えど/\靡(なび)かぬは、彼には間夫の柳枝とやら、尺八指南の怪しき奴、恋の遺恨に彼奴(きゃつ)が身の上、詮議なさんと思う内、また象潟が一人の客艶の都とて、黄金を撒き、全盛尽して象潟を、身請けと罵る口惜しさ、
※ 人立ち(ひとだち)- 人が群がって立つこと。人だかり。
※ 全盛(ぜんせい)- はぶりのよいこと。また、そのように振る舞うこと。
その上聞けば象潟を、柳枝へ遣りし取り捌き、無念遣る方無きまゝに、柳枝を殺して象潟を、奪い取らんと込み入りしに、闇の紛れに取り違え、象潟を斬って柳枝をば、安穏で置く口惜しさに、取って返して一討ちと、窺い聞けば我が父の、今際(いまわ)に語りし手掛け腹、現在妹を恋い慕い、また手に掛けし無道人、せめて枕を交わさぬが、兄弟血筋を汚さぬ嬉しさ、よう振りつけて呉れたる」と、聞いて喜ぶ象潟を、艶の都は労わりながら、
※ 安穏(あんのん)- 平穏無事。
※ 手掛け腹(てかけばら)- 妾腹。めかけを母として生まれたこと。
※ 現在(げんざい)- 正真正銘の。まぎれもない。
※ 無道人(むどうにん)- 不当人。人の道にそむいた行いをする人。不法者。
「そちが心にかゝるという、柳枝殿の身の上は、我語りて聞かすべし」と、頭巾を取りて両眼開き、羽織り上衣をすっぱりと、脱げば下には墨染の、衣姿の尊さに、人々はっと驚くばかり、さも殊勝げに座に着きて、
※ 殊勝(しゅしょう)- もっともらしい様子で、神妙にしていること。
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