平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
事実証談 神霊部(上) 50~52 鳴いたり、物言う木の怪
今日の話と直接関係ないが、何とも異形で、
この木なら物を言っても不思議はないと思えた)
物を言わない木々が、鳴いたり、物を言ったりすれば、怪しきことになる。風の仕業であろうか、鋸の音が反響するのであろうか。それを木々が発する声と聞くのは人間である。怪しきはそういう人間の方かもしれない。現代にも木々が発する声が聞こえるという人がいる。現代らしく、科学の味付けがされているが、怪しい点に変わりはない。
巨木巡礼をしていた頃に、病院に勤めていた娘から、安物の聴診器を手に入れて、何度か木の幹に当てゝ見た。音は確かに聞こえた。木々が水を吸上げる音だと誰かが話していたが、枝を揺らす風の音だったのかもしれない。
事実証談、神霊部(上)の第50話から第52話までは、木々から聞こえた怪しき音や声の話である。それ自体が崇りを引き起こしたという話ではない。
第50話
同郡尾高庄、半三郎居屋敷は山添いにて有けるが、裏なる山の中腹に高さ五尺ばかりなる大石あり。その所を山神と言える由。その大石の傍らに周廻(めぐり)三尺余りの栗の木有りけるを、文化十一年の九月、その家の嫡男、藤五郎伐り取らんとて、伐りかゝりければ、貝を吹く如く鳴りける故、驚きて見れば、則ち止みたりしを、怪しき事に思い、家に帰りて天宮村の木挽(こびき)金蔵という者、藤五郎の家に居合わせしに、しかじかの由、物語る。則ち金蔵を伴ない行きて、又伐らんとするに、貝吹く如く鳴りける故、二人ともに怪しみ、その木伐ること止みにしと、則ち金蔵の物語りなり。
※ 貝吹く - ほら貝を吹く。
第51話
同郡幡鎌村草苅山(猪の野田といふ所にあり)に、茱萸(なわしろぐみ)の大木あり。凡そ十間余に蟠(わだかま)れり。近頃故なく、その木、時々貝吹如く鳴らし、事有りしが、その村の者にても、如何なる故と知る人無しと言えり。
※ 茱萸(なわしろぐみ)- グミ科の常緑低木。暖地の山野に自生。枝はとげ状になり、葉は長楕円形で縁が波うつ。秋、白い花が垂れて咲き、実は翌年の田植えのころに赤く熟し、食用となる。はるぐみ。
第52話
浜名郡元白須賀なる高見という所に、周廻(めぐり)壱丈余の松の古木あり。この松、往昔御本陣の庭の松なりしと言い伝えたり。寛政と言いし年の初めの頃、その松に物の声ありけるを、人々怪しみ、近寄りて聞くに、その声遠くて聞くも同じ事にて、物の鳴き声の如くなるを、よく/\窺えども、物有るにもあらざりしと、今に言い伝えて、怪しき事なりと言えども、如何なる故にか、知る者無しと言えり。
※ 元白須賀 - 旧東海道、白須賀宿は元は海辺にあったが、宝永4年(1707)に発生した宝永地震と津波により壊滅したため、その後、潮見坂の上の高台に移された。元白須賀は移転前に白須賀宿があった所である。
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