ホンダが50cc以下の「原付バイク」の生産を終了すると発表しました。2025年から始まる排ガス規制では、50cc以下のエンジンだと排ガスを浄化する機能が不十分で、基準を満たすのが難しいというのが理由ですが、それ以前にかつてのようには売れなくなってきたので、もう重荷だからやめようということでしょう。世界で最も売れたバイクとして知られるスーパーカブ以来の伝統が終わるわけで、かつてのホンダファンとしても寂しい限りです。
50ccの原付バイクは、それまで男のものだったバイクを、女性が自転車代わりに乗ることができる手軽なものとしてパラダイムシフトして、1980年代に爆発的にヒットしました。普通自動車免許で乗れるので、大学生だった僕の周りでもどんどん乗る人が増えてきて、僕も大学4年生の春に流行に遅れまいと赤いホンダのタクトを買いました。10万円余りで手頃な買い物でした。
当時はまだヘルメット着用も義務化されておらず、ノーヘルでみんな本当に自転車代わりに乗り回していました。タクトを買ったのは家の近所のバイク屋がホンダ系列だったということが大きいのですが、当時スズキから出ていたジェンマの方がベスパっぽいデザインでオシャレに見えたので、本当はジェンマの方が良かったなと内心思いながら乗っていました。ジェンマはCMにも俳優のジュリアーノ・ジェンマを起用していて、という話を書いたところで60代以上にしか話が通じないでしょう。
当時すでに中古で買った27万円のサニーに乗っていたし、ちょっと近所の本屋に出かけるくらいならこれまで通りに自転車で十分だったのに、さらに流行に乗ってスクーターまで買ってはみたものの、使い分けには悩みました。燃費はリッター30kmを軽く超えていたので、自転車ではしんどい5km以上10km未満の距離を走るには手軽で適していましたが、駐車場さえあればやはりタクトよりもサニーで行く方が楽でした。結局新入社員の夏にコケて壊してそのまま廃車にしましたから、実際に乗っていたのは1年半くらい。大怪我までして高い買い物になりました。
それでも未だにタクトのことを思い出すと、大学生の頃に一緒にスクーターを連ねて走っていた男女グループのテニススクール仲間たちを思い出すので、甘くて切ない気分になります。青春というものは気恥ずかしいけれど良いものです。ちなみに今後は普通自動車免許で125cc以下のバイクに乗れるように法改正するらしいです。そんなことしてバイクの事故が増えたらどうするんだと、もうバイクに乗る気などさらさらない、青春とかなり距離ができてしまった60代としては心配になるばかりです。