書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

林毓生著 丸山松幸/陳正醍訳 『中国の思想的危機 陳独秀 胡適 魯迅』

2012年03月04日 | 東洋史
 著者のキーワードは、“総体論的反伝統主義”もしくは“伝統破壊主義的総体論”。
 これは、中国の欠点(と見なされるもの)を、中国がこれまでに置かれてきた歴史的・環境的な文脈から分析・理解することなく、その時点における価値基準から、文化的な欠陥としてとらえ、すべて否定・破壊しようとする立場と、要約できるであろう。著者は、五四運動をはじめ、そのあとの文化大革命も、天安門事件にいたる学生・知識人運動(たとえば『河觴』)も、すべてそうであるというのだが(そして五四運動を担った陳独秀も、胡適も、魯迅も、みなそうだと)、どうかねえ。

(研文出版 1989年11月)

胡適 『胡適全集』 第拾捌巻

2012年03月04日 | 東洋史
 ●「胡適口述自伝」(1986年刊)

  私は、民主とは生活方式であり、習慣化した行為であると考える。科学とは思想と知識における法則だ。科学と民主の両者が相俟ってある心理的状態をかたち作り、行動の習慣を形成するのである。 (「五四運動」)

  陳独秀は、ソ連共産党の秘密代表から科学的社会主義こそが真の科学であり民主であると吹き込まれて道を誤った。 (同上)

 感想。胡適の悲劇は、五四運動から死ぬまでの半世紀ちかく、口を酸っぱくして同じことを同じ次元で言い続けなければならないことだった。

(安徽教育出版社 2003年9月)

胡適 『胡適全集』 第捌巻

2012年03月04日 | 東洋史
 ●「科学的人生観」(1928年5月講演、1928年6月「民国日報」掲載)
  福沢諭吉の『訓蒙 窮理図解』(1867年)と趣旨においてほぼ同じことを述べている。即ち、科学的方法とは1)懐疑の精神、2)事実の探求と尊重、3)証拠の存在、4)真理の追究。

 ●「演化法与存疑主義」(1930年『胡適文選』収録)
  “科学的精神とは十分な証拠のないものは一切信用しないという態度である”(要旨)。ちなみに演化法は進化論、存疑主義は懐疑主義。

 ●「科学概論」(1934年2月21日、北京大学での講義内容)
  上に同じ。

 ●「格致与科学」(1933年12月執筆)
 “中国で科学の興らなかった理由は、士大夫は自分で手を動かして自然と接触・観察しなかったからだ”(要旨)。
 “格致といい格物というも、結局は本のなかの理屈を究めること、さらに狭くはおのれの心中の道理を窮めることに過ぎなかった”(要旨)。

 ●「科学精神与科学方法」(1959年11月、台湾大学での講義。対象は国民党政府科学教育委員会および中華科学協会会員)
  これまでの上に同じ。 
 
(安徽教育出版社 2003年9月)