書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

李暁東 『近代中国の立憲構想 厳復・楊度・梁啓超と明治啓蒙思想』

2008年09月11日 | 東洋史
 梁啓超は中国で設置すべき国会の機能を、立法機関から監督機関(=諮問機関)へと捉え直した。この梁の変化を、通常「開明専制論」への後退と呼んでいるというのが、著者の見地。
 日本では議会についての理解は、諮問機関から議決機関・立法機関へと進んだ。だが日本の場合、無知による誤解から知識の増進とともに正確な理解へと進んだのだが、中国の場合、日本という先達もあって、当初から正確に理解していたが、中国の「民情」(あるいは「民度」、あるいは「国情」)にかんがみて(あるいはそれらを口実にして)、故意に理解を歪げたところにあるようだ。著者によれば、この経緯は表題に名が挙げられた厳復・楊度・梁啓超の三名すべてに共通するらしい。

(法政大学出版局 2005年5月)

全体主義国で世論調査を実施する意味は

2008年09月11日 | 思考の断片
▲「asahi.com」2008年9月10日8時10分、「日中関係『良い』中国5割、日本は1割 共同世論調査」
 〈http://www.asahi.com/national/update/0908/TKY200809080343.html

 中国側で今の日中関係が「良い」と答えた人は54.3%で、前回の24.9%から2倍以上に増えた。日本側は13%で、逆に「悪い」と答えた人が46.1%に達している。今後の日中関係についても、中国側は「良くなる」が81%と肯定的な意見が多いのに対し、日本側は「変わらない」(35%)が「良くなる」(32.2%)を上回った。

 中国側の調査では日本の政治体制について46.4%が「軍国主義」と答えた。

 →言論NPO/中国日報社「2008年 第4回 日中共同世論調査」
 〈http://www.tokyo-beijingforum.net/index.php?option=com_content&view=article&id=345:canvass4th2008&catid=83:canvass4th2008&Itemid=160

 言うまでもないが、軍国主義というのは「武力や軍事的な手段をもって外国との争いを解決しようとすること」(林思雲)である。相手を軍国主義とみなしておきながらその相手と現在将来にわたって良好な関係を保てると考える、こんな矛盾もはなはだしい回答がどうして出てくるのか。それは、党と政府の対日路線の公式見解をそのまま繰り返しているからであり、その対日路線が目下、「友好」(胡錦濤)と「敵視」(江沢民)の二つに割れているからである。そのふたつのいずれにも追随しようとするとこんな無茶苦茶な回答になる。もっとも答えている本人はどうでもいいことだから無茶苦茶でも平気なのであろう。旧ソ連や東欧諸国で、あるいはフセイン時代のイラクで、結局そうであったように、全体主義国家の国民に世論調査をしてみたところで本音を言うわけはないから無意味だ。