書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

森宣雄 『台湾/日本 連鎖するコロニアリズム』

2005年12月16日 | 政治
 郭煥圭『台湾の行方 Whither Taiwan?』(→今年11月8日)で要約された範囲以上を出ない本である。 
 蔡焜燦『台湾人と日本精神』と殷允ほう(くさがんむりに凡)編『台湾の歴史』(→2002年1月9日)を読む前にこの本を読んでおけばよかったとは、正直、思った。しかし著者の主張を簡単にいえば、日本の左翼が大陸中国側に取り込まれているから台湾人(独立派)としては“親日”と“日本人がいたころは良かった”調の右翼取り込み戦略を採らざるをえないということでしかない。“連鎖するコロニアリズム”などといった大仰な言葉遣いに値する情況か。
 もっとも、その台湾独立派の戦略(策略)の実態がその担い手の面々と共に、資料によって丹念に跡づけられるのは、まあ面白いといえば面白い。利用されていたことに気がついて憤激のあまり、「思うに任せない国になる」くらいなら独立させたくないと今度は180度強烈な反台に転じる日本の保守派人士の言動と実名が出てくるのも面白い。台湾人は程度が低いから自分で何が正義か判断できない、中国に統一されるのが台湾の幸福であるからおとなしく併呑されてしまえ、台湾独立主義者はアメリカ帝国主義の手先であり中国の敵である、だから死ねばよいと、むかし要はそう言っていた(あるいはいまも要はそう言っている)、日本の左翼・“進歩的”メディア・および中国研究者たちの実名が、彼らの生の言動の引用とともに出てくるのも、それなりに面白い。
 惜しいのは、著者が、台湾の独立そのものに対する自分の意見を明らかにすることを――べつにどちらの陣営を支持するのかはっきりさせよと言うのではなく、一人の人間として現在の台湾と台湾人の置かれた状況をどう見、感じているのかという素朴な問いに対する答えすら――、最後まで回避していることだ。この過敏とさえ言える反政治主義のために、この本全体の印象が不透明なものになってしまっている。

(インパクト出版会 2001年9月)