最近理由があってイスズミ科の勉強をしている。その理由は残念ながらまだお話できないのだが、とにかくイスズミの仲間をいろいろ見比べているのである。
しかしなぜかイスズミ科の魚の画像をほとんどもっていない。フォルダにあったイスズミ科の魚はほとんどすべてがテンジクイサキであった。なぜかはわからないがテンジクイサキばかりであった。
その中で唯一テンジクイサキ以外に画像があったのがこのノトイスズミであった。これは自分で採集したものではなく愛媛県南部・愛南町の西海にある定置網漁師の方からいただいた個体である。
ノトイスズミの「ノト」というのは「能登」のことだという。これはこの仲間を研究していた酒井恵一氏により1991年に種の標準和名が提唱された。このときに学名はつけられていなかったがのちにKyphosus bigibbusとされ、従来この学名が使用されていたミナミイスズミは2004年に新種記載された。
ノトイスズミとミナミイスズミはそっくりであるが、胸鰭の形は若干異なっているようである。たしかに写真などで見るミナミイスズミは胸鰭がやや長めで先端が少し伸びているのに対し、ノトイスズミの胸鰭はやや短く先端は丸みをおびている感じである。ただ最も見分けやすい形質は計数形質、つまり数値で表せるもので、ノトイスズミは鰓耙数が21~24なのに対し、ミナミイスズミでは26~29とやや多めである。
背鰭軟条数は12。おそらく背鰭軟条数12であるミナミイスズミとはこの特徴では区別できないのだが、背鰭軟条数が14あるイスズミとはこの形質で区別できる。ただし個体がのこっている、または背鰭軟条部を数えることができるような写真を残しておく必要があるのだが。
また生時の色彩はイスズミが銀色で体側の線が黄色っぽく鮮やかなのに対し、本種の体は大変失礼ながら汚い茶褐色で、真っ黒になっていたりすることもある。頭部の線も残念ながらイスズミほどきれいなものではない。ただしこの写真の個体は一度冷凍したものであり、本来の色彩ではない。一方、ミナミイスズミの色は青みをおびた灰色の色彩で、頭部の線も灰色っぽいことが多いのだが、この種の中には前進が黄色でお腹が白っぽいものや、体全体が白っぽい個体が出現することが知られている。この色彩変異の理由は不明ではあるが、黄色い個体を1か月飼育していると元の色彩に戻ってしまったということで、別種ではなく色彩変異らしい。
ノトイスズミは本州~九州にも多く分布する種で、東北地方太平洋岸や日本海にも出現するお馴染みの魚である。イスズミ科の魚は内臓は臭く、釣りあげてすぐ糞をするのであまり食用としては人気はないのだが、このノトイスズミは美味しいとされる。ただしまだ私は食べたことがないので、今後の課題といえるだろう。
●文献
酒井恵一,1991.日本のイスズミ属魚類は4種.I.O.P. Diving News. 2(8):2-5.
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