今回は普通種であるものの、このぶろぐでは紹介できていなかった魚をご紹介。ウミタナゴ科のウミタナゴ。
従来の本ではウミタナゴ科の魚はオキタナゴ・ウミタナゴ・アオタナゴの3種のみが掲載されていたが、現在はウミタナゴ科は先述の3種のほか、アカタナゴという種が知られ、合計4種からなり、このウミタナゴの亜科にマタナゴというのがおり、日本産種は合計2属4種と1亜種の合計5種・亜種からなる。しかしこの5種・亜種は東アジアに生息するウミタナゴのすべてでもある。Fishbaseによればウミタナゴ科は世界で24種がいるというが、先述の5種・亜種を除いてほぼすべての種が東太平洋に生息する。ケルプの生えた岩礁域を北米産のウミタナゴ類であるサーフパーチが泳ぐというのは現地の人にとってはお馴染みなのだろう。日本の磯でメジナやクロダイが群れるように。
そしてもうひとつの例外がカリフォルニアの河川に生息するロシアンリバートゥールパーチで、この種は純淡水域に生息するウミタナゴ科とされ貴重である。しかしながら拡大写真を見ると、ああ、ウミタナゴの仲間なのだな、とわかる。
ウミタナゴ科は繁殖様式ではほかの魚と大きく異なり、卵を産まず子を産むとして有名である。この個体は何も入っていなかったが、大型の雌は腹がぱんぱんに膨らんでいて、中には体長5cmほどの胎仔が見られた。
ウミタナゴとマタナゴは先述した通りに亜種関係にある。分布域はウミタナゴが北海道沿岸、東北地方太平洋岸、日本海全域、宇和海、九州東シナ海沿岸(タイプ産地は長崎)であるとされるが、ほかにも宮崎沿岸でも本亜種とおぼしき個体が見られる。海外では朝鮮半島、済州、黄海、渤海に見られ、一方のマタナゴは千葉県以南の太平洋岸、紀伊水道、瀬戸内海、豊後水道で分布する。写真の個体は宇和島産で、どちらの亜種も分布する海域の産でありしっかりチェックしてみたい。
ウミタナゴとマタナゴを識別するのは頭部の模様で行うのがよいとされる。ウミタナゴもマタナゴも眼の下や前鰓蓋縁に明瞭な黒い点があるのが特徴である。
写真の黄緑色の矢印(前鰓蓋縁隅角部)で示した黒色斑はウミタナゴにもマタナゴにもあるが、赤い矢印で示した前鰓蓋縁前下方の黒色斑はウミタナゴにはあるものの、マタナゴにはないので見分けることができる。マタナゴについては成魚の良い写真を有しておらず紹介することはできなかった。またいつかいい個体が入手出来たら「魚のぶろぐ」でも紹介したいと思っている。メバルとともに「春を告げる魚」とされ、釣りの対象魚である。身はやわらかいが塩焼きが大変おいしい。