昭和8年11月15日 富田驛の驛長さんが蛤のパンフレットを作った。おそらく海水浴場入り口のお土産屋でも配布されており、お土産用に蛤が販売されていたと想像される。霞洋館や三藤旅館の料理も蛤尽くしであったのだろう。作られたのは昭和8年。大正時代の好況から、昭和7年には5.15事件が起き、8年は日本が国際連盟を脱退した、なんとなく不穏な空気が迫ってくるような年でした。※ しかし富田浜は大賑わいでございました。
蛤・時雨蛤のご注文は富田驛長へ! お取次ぎ致します
三重縣三重郡富州原町須賀浦 富田驛須賀浦蛤共同販賣組合
昭和8年11月23日印刷・昭和8年11月25日発行 定価金十銭
印刷人 三重縣四日市市沖之島町 中川政吉
富田の天然蛤は比重の軽い朝明の清流で清められた海水で育成せられただけあってその品質においてその風味に於いて確かに「天下随一」と誇る逸品であるに拘わらず従来は宣伝が足らず取引方法も悪かった関係で兎角売値が叩かれて採取者も販売者もその労賃に報われない現状にあるのであります。この窮状打開のため今回富田駅長水野氏斡旋の下に『富田駅須賀浦蛤協同組合』なるものを成立せしめ『誠実なる取引』を旗印して販路拡張を図ることとなりました。
一体、蛤は栄養素の最も富んだ食品でありまして殊にビタミンEを多量に含有し所謂『若返り』に最も効果があるものでありますが従来はお正月の吸い物や嫁取りの祝物等の外にはあまり日常用いられない地方もありまして誠に遺憾であります。依ってこの際本書を編纂し広く江湖家庭に頒布し以て蛤料理の普及を測らんと存ずる次第であります。
願わくば是非御勝手に??られ天下の珍味、蛤賞味の参考に供せられんことを。 昭和8年11月15日 編 者 識
次のページには、医学博士である山北又十郎氏が、蛤の栄養価について解説し、
昔、東海道中の旅人が皆が皆までこの都の名産焼き蛤に舌鼓をうって旅を続けたものであるが蛤は疲労を回復するにもってこい食物であることは今日の科学上から見てもまことに宣べたるかなと頷かれるのである。
?之、蛤はそれが有する云うに云われぬ風味が賞味され吾々の食欲を邁進せしめるほかに、栄養学上からも大に推奨するに足る食品であるのである。
続いて蛤のレシピが掲載されています。
蛤の白みそ汁・蛤の吸い物・蛤と分葱のぬた・蛤のくわい衣揚げ・蛤飯・蛤丼・蛤スキ・蛤と昆布の佃煮・蛤の水炊き・蛤豆腐・蛤と京菜の煮物・蛤のワサビ酢・蛤のスープ・蛤のチャウダー・蛤のオムレツ・蛤のコロッケ・蛤のパン粉揚げ・蛤の炒め煮・蛤の揚げ物と日本料理、西洋料理、中国料理と多彩です。
料理品目等、画素が荒いので、読めない箇所は?にしました。識別できた方はお知らせください。