花の四日市スワマエ商店街

表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

小津安二郎「秋刀魚の味」考

2011年07月11日 | 諏訪商店街振興組合のこと
小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」は、同窓会の相談から始まります。
旧友の一人が、新聞を拾って読む恩師“ヒョウタン(東野栄次郎 栄治郎)”を見かけたことから同窓会をやろうということになります。
「よく飲み、よく食う」ヒョウタンを酒の肴に同窓生は過去の懐かしい話題に花をさかせます。
過去を懐かしむことが、なぜ楽しいのか?そうして楽しくほろ苦いのか?映画監督の吉田喜重は「小津安二郎の反映画」岩波現代文庫でこう説明しています。
     
「遠く過ぎ去った中学時代のことをさほど覚えていないにもかかわらず、それを懐かしく感じるのは、すでに死に絶えて停止している時間であるからにすぎない。いま生きている現在といった時間が刻々と移ろいゆくあまり、それがなんであるか知りえず、そうした不確定であることの不安より逃れようとして、すでに死に絶えて動かぬ過去の時間に身を寄せて、心地よく懐かしむのである。
(中略)いま生きつつある現在がなんであるかを知りえない人間が、肩を寄せあうようにして二度とかえらぬ過去を語る姿に、むしろ小津さんはいつわらざる人生の苛酷なありようを見たのである」
     
酔った“ひょうたん”を送る笠智衆がそこに見たものは、便利に使い嫁に出し遅れた娘(杉村春子)と二人で営む場末の中華ソバ屋だった。

「かつての恩師はいまだに結婚しない娘とともにその店を開き、細々と暮らしていたのである。その意味では同窓会は過去を懐かしむというより、むしろありのままの現在をいつわりなく映し出す残酷な鏡であり、小津さん自身の老いゆく眼差しがそのようにきびしく見つめていたのである」

“ヒョウタン”演ずる東野栄治郎は印象的で、ユーモアの中にも悲哀をじゅうぶん込めた名演でした。
コメント (2)
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