29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

ひさびさに良いソロを吹き、エフェクト少なめ

2011-11-07 21:33:20 | 音盤ノート
Nils Petter Molvaer "Baboon Moon" Thirsty Ear, 2011.

  ジャズ。というかジャズロックである。モルヴェルのテクノとの接近のピークは"ER"(Emarcy, 2005)までで、以降のアルバムはアンビエントな曲を主に、二曲程度ロック的な曲な織り交ぜるという構成だった(参考:1 / 2)。今作は、ロック的な曲の比重が高くなっている。

  トリオ編成で、Jaga Jazzistに在籍したこもあるStian Westerhusが、ギターとキーボード等の楽器とプロデュースを担当。打楽器はErland Dahlenという詳細不明の人物。幽玄なシンセ音はこれまでと同じだが、内臓にズシンと来るドラムサウンドとディストーションギターを前面に配し、これまでに無い方向性を打ち出している。また、いつものアンビエントな曲でもはっきりとしたメロディを吹いており、トランペットがよく歌っている。ソロにおける緩いスピード感は相変わらずであるものの、エフェクトをかけることが減ってアブストラクトな感覚は減退した。全体としてわかりやすい作品と言えるだろう。

  往年のファンとしては、このジャズロック的な展開には戸惑っている。しかし、ソロについてはかなり評価できる。もっともストレートにソロを聴かせていた彼のアルバムとしては、"Khmer"(ECM, 1997)が挙げられるが、あれに近いレベルと言えるだろう。
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統計学者の研究業績を重視した硬めの列伝

2011-11-04 21:10:38 | 読書ノート
デイヴィッド・サルツブルグ『統計学を拓いた異才たち:経験則から科学へ進展した一世紀』竹内惠行, 熊谷悦生訳, 日本経済新聞, 2006.

  統計学者の列伝で、統計学の諸概念がどのような経緯で形成されてきたかがわかる。ただし、数式が出てこないとはいえ、入門書としては使えない。あらかじめ統計学を学んだ人が、そこで使用されている概念や手法についてもっと深く知りたいというときに繙かれるべき内容である。

  ピアソンとフィッシャーの確執は面白いものの、基本的に統計学者としての業績に焦点をあてた伝記集であり、人物伝としては地味なものである。また、多変量解析の発展についてはほとんど言及がない。著者の興味は、統計における検定の解釈、すなわち「有意であるとは何を意味するか」にあるようだが、書籍の内部で十分議論が展開できているわけではない。

  以上のような不満が残るけれども、気楽に読めて知識を深められるという点ではメリットがある。なお、2010年に日経ビジネス人文庫版が発行されている。
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堅くて重いピアノに、空間系の効果音を添える音楽

2011-11-02 11:35:54 | 音盤ノート
Stefano Battaglia / Michele Rabbia "Pastorale" ECM, 2010.

  ジャズ。でも、即興はあるものの、かなりクラシック寄りである。ステファノ・バターリアは、1965年にイタリア・ミラノで生またジャズピアニストで、1987年から録音がある。もう一人のミシェル・ラビアは、同じく1965年のトリノ生まれの打楽器奏者で、Enrico RavaやPaolo Fresu他、イタリアのジャズミュージシャンと多くの共演歴があるらしい。この二人の共演盤は、すでに"Stravagario"(WJ, 2001), "Stravagario 2"(WJ, 2003)の二枚があり、これが三作目となる。

  演奏は、バターリアのピアノに、ラビアが効果音的に打楽器やエレクトロニクスを加えるというもの。ラビアの役割は、1970年ごろのマイルス・デイビスのバンドにおけるAirto Moreilaと同じで、アクセントや色づけ重視であり、リズムは刻まない。バターリアは、「遊び心を見せない」ソロにおけるキース・ジャレットのようで、重くて暗い叙情をのぞかせながら、ひたすら峻厳な演奏を続ける。軽みの無い演奏であることは確かだが、聴いて疲れるかというとそうでもない。バターリアの、実験的な展開の中にタイミングよく琴線にふれる和音を繰り出すセンスは抜群で、耳馴染みする面がある。

  打楽器とピアノのデュオで巧くいった録音を知らないが、この作品は例外である。
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