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未来は明るい。ただし、あくまでも人類レベルの話で国や社会層については不問

2013-06-26 18:46:09 | 読書ノート
マット・リドレー『繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史』大田直子, 鍛原多惠子, 柴田裕之訳, 早川書房, 2010.

  分業と交換によって人類は発展した、この原理を今後も守ってゆくべきだと説く内容。原題は、"The Rational Optimist"すなわち「合理的楽観主義者」である。著者は科学ジャーナリストで、このブログではすでに『赤の女王』(参考)と『徳の起源』(参考)を紹介している。二巻本だが予想されるほど長くはなく、合わせて600ページ弱である。

  著者は、分業と交換によって人々が相互に依存する社会を良しとし、対して自給自足は人間の理想ではなく、悲惨な貧困そのものだという。交易は農業にも国家にも先行する人間の基本条件であり(生得的とまでは述べてないが)、それがもたらす分業化は人間社会を豊かにしてきた。このテーマを、豊富なエピソードを使って論証してゆくのが前半の内容である。その過程で、交換によって人は他者を信頼するようになること、分業化にはある程度の人口密度が必要だということ(したがって著者はマルサス的な人口抑止論には懐疑的である)などが指摘されている。後半は、人類の将来への悲観論に対する反駁が述べられる。自由市場を維持し、政府による経済統制が無いほうが貧困は撲滅できること、人口問題や環境問題は深刻ではないことが主張されている。

  人類という単位でみると大変納得のゆく議論だろう。けれども、歴史の途上で滅んだり悲惨な目にあったりする民族や国家があり、あるいは自由貿易で不利を被る社会層もあるわけだが、そうした単位は考慮されていない。この点を瑕疵とみるかどうかで本書の評価は分かれるだろう。それでも、人類というレベルでの議論ならば、悲観主義者に対する合理的楽観主義者の議論はかなり強力であり、未来予想で負けるのは前者であると読者に思わせるぐらいの説得力がある。
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