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エビデンス・ベースド・育児の書だが、わからないことも多い

2022-05-08 10:56:22 | 読書ノート
エミリー・オスター 『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』堀内久美子訳, サンマーク出版, 2021.

  育児書。『医者さんは教えてくれない妊娠・出産の常識ウソ・ホント』の続編であり、経済学者である著者が、乳児から幼児にかけての子どもに関する医学・発達心理学の研究をレビューして、適切な育児法を指南するという内容である。著者は働く二児の母だが、本書は専業主婦も対象としている(母親の就業に関するトピックがあり、アドバイスはニュートラルだ)。原書はCribsheet: a data-driven guide to better, more relaxed parenting, from birth to preschool (Penguin, 2019.)である。

  単に科学研究を参照しているというだけでなく、データ分析家として複数の研究結果のエビデンスを評価しているところが、「科学的育児」をうたう他の書籍との大きな違いである。育児におけるある種の処置の影響は、他の要因をコントロールしたときに本当に「ある」と言えるのか、あるとすればどの程度か、という具合だ。と、このように記すと硬い学術書かのように見えるかもしれない。けれども、実際は著者の育児体験談の話も交えて読みやすく書かれている。ただし、エビデンス評価の論理について、読んでわかるようさらっと説明が施されているけれども、それほど詳細ではない。だがそこがよくわからなくても、各章の最後にまとめられているアドバイスを一瞥するだけでもそこそこタメになるはずだ。

  トピックとしては、寝かしつけ方法、添い寝か別室寝か、母乳育児、離乳食、トイレトレーニング、しつけ、テレビ視聴、就学前教育における教育方針、などなどが取り上げられている。乳児段階のトピックでは「この方法がいい」というのがはっきり示される。その目的が睡眠時間など直近で計測できる事柄だからだ。しかし、子どもの月齢があがってゆくと「悪いと言える方法はこれ。世間で言われているある種の育児法には効果がない。しかし、研究不足もあって明確に良いと言える方法はわからない」という結論にしばしばなる。直近の育児手法の目的となるのが、学齢期になってからの学力など多数の要因が関わる長期の結果だからだ。このため、後半のトピックでは、「わからないことが多いのだから親のストレスが少なる方法を採用すればよい」というスタンスとなってゆく。

  というわけで、全体としては「親が気分が良ければ子どもの気分もたぶん良くなるのだから、最悪のことだけを避けてあとは自分が気持ちの良いと思える育児をしなさい」という方向に進んでゆく。育児は楽におやりなさい、というわけだ。僕の子どもはもう高校生だが、彼女が生まれた時に読んでおきたかったな。なお、就学時の問題を扱ったThe family firm (Penguin)というさらなる続編が2021年に発行されていて、早く邦訳されることを期待する。
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