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会計導入の攻防史、勝利はまだ遠く

2019-06-02 13:06:19 | 読書ノート
ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』村井章子訳, 文藝春秋, 2015.

  会計の歴史。原書は、The reckoning: financial accountability and the rise and fall of nations(Basic Books, 2014)。著者は米国の大学の先生で、日本の話(江戸時代の大阪商人の複式簿記など)はない。2018年に文庫版が発行されている。

  まずはメソポタミアや古代ギリシアの会計にも触れられるものの、現在まで継承される会計のはじまりはルネサンス期のイタリア都市国家だという。収支を測るために貿易商人や銀行家のあいだで発展し、会計についての著作も残されたとのこと。著者によればキリスト教倫理はプラスにもマイナスにも働いたという。現世の罪を善行によって帳尻を合わせるという意識は会計への感覚を発達させた。一方で、商業を軽視するその教えはメディチ家をも破滅させたとする。

  以降は、フェリペ二世時代のスペイン、独立戦争期のオランダ、ブルボン朝および革命期のフランス、産業革命期のイギリスと舞台を変えてゆく。おおむね赤字で苦しむ国家予算改革の話で、複式簿記の導入や国家予算の公開を試みる新興勢力と、既得権益を持つ守旧派の争いとなる。スペインは改革に失敗するが、フランス革命は一気に、イギリスは徐々に目標を達成したということである。後半の1/4はアメリカの話で、独立革命から鉄道時代、さらにはつい最近のリーマンショックまでカバーする。

  歴史的に会計は財務を健全化させることに貢献し、資本主義経済を発展させてきた。しかし、一方で会計は複雑化してわかり難くなってきており、不正を完全に排除できるものとはなっていない、というのが結論である。複式簿記は重要だとか測定しがたい資産をどう計上するかという話はさらっと出てくるものの、解説がまったくなくて、会計方法について理解は促さない。そのような七面倒臭い話がないので、読みやすくなっていると言われればそうなのだろう。でも、僕はそれに付き合う気があったので、少々物足りない感もあった。
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