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英国00年代の公共図書館改革の途中経過報告

2023-11-09 08:56:44 | 読書ノート
Anne Goulding Public Libraries in the 21st Century: Defining Services and Debating the Future Ashgate, 2006.

  ニューレイバー時代、00年代前半の英国公共図書館論。図書館員におけるリーダー的存在61人へのインタビューによって英国図書館の現状を伝える── John PatemanとJohn Vincent(参考)も登場する。著者はラフバラ大学の先生(執筆時)。このタイトルに話を限れば、著書が実際に議論している範囲を適切にカバーできていなくてダメだと思う。中身は情報量が多い。

  焦点は、文化・メディア・スポーツ省が2003年に発表したFramework for the Futureなる公共図書館の報告書についてである。これを、一部の図書館員は地方自治に対する侵害であるとして批判する。だが、かつての保守党政権が図書館に関心を持たなかったのに比べて、労働党政権は国として指針を示したわけで、報告書は現場の図書館員が自治体を説得する材料となった。このことを評価する図書館員も多かったという。

  英国の公共図書館は、高齢の白人中流層(特に女性)が小説を借りに来る施設だというイメージがある。こうしたイメージを変えるために、若者や移民を利用者とすること、IT化など書籍の貸出以外のサービスの提供、また新しいサービスを実行するための資金獲得、これらが課題となった。インターネット・アクセス端末の設置はおおよそ成功した。ネット接続目当てに従来ならば来館しなかったような社会層が図書館を訪れるようになった。だが、伝統的な利用者を遠ざけていることも懸念もされた。

  また、サービスの多様化や目標の数値化は職員にストレスを与えた。図書館員の間でも、図書館は読書機会の提供の場であり続けるべきか、それともあらゆる人々に情報アクセス機会をもたらす場となるべきか、議論があるという。後者は一部の図書館員に支持されているものの、実際には実現するためのリソースが常に足りない状態となるため、外から見れば図書館を貧弱に見せる結果になっている、あるいは図書館が何をやりたいのか見えにくくさせている、という。

  このほか、1980年代以降英国の公共図書館では貸出数が減少しつつあること、英国では1995年に再販制をやめたが、納入業者がいくつかつぶれたために全国で5~6社ぐらいになったらしく図書館もそれなりに影響を受けたこと、全国的に管理職となる人材が不足していることなどについて議論されている。

  以上。各トピックについて、インタビュイーの間で反対意見もあるが肯定意見もあるという調子でまとめている。2000年代半ばは景気が良かった時期で、数年後のリーマンショックでそれは暗転する。なので、この時期は英国公共図書館としては中興期だったはずだ。2010年代になると、利用者減少と図書館閉鎖という悲惨なニュースしか伝わってこない。それを思うと、一見ニュートラルに記述されている本書も楽観的に感じられる。
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