遠藤乾『欧州複合危機:苦悶するEU、揺れる世界』中公新書, 中央公論, 2016.
EUの現状および今後の分析。前半では、ユーロ危機、難民問題、安全保障問題(ウクライナの内戦からフランスでのテロ)、英国のEU離脱を扱っている。後半では、ヨーロッパ統合がそもそも何を克服しようとしてきたのかについて歴史を遡り、現在に至って何を克服できていないのかを探っている。
前半は現状報告だが、ギリシア危機やシリアからの難民問題など、問題があったときには報道されるがその後どうなったのかあまり積極的に伝えられることのない事件についての、EUの対処がわかってためになる。後半はEUの問題の分析。そもそもヨーロッパ統合を「第二次世界大戦の反省」によって評価するのは一面的で、ドイツにある資源(石炭)を復興に用いたかったフランスと、国際社会への復帰を狙ったドイツの思惑の一致という、短期的な利害が統合の端緒であるという。その他、ナショナリズムとヨーロッパ・アイデンティティのずれ、統合が利益となる階級と不利益となる階級の存在、それでも統一通貨ユーロには大きなメリットがあることなどが論じられている。著者は、緊縮策を加盟国に強制するドイツの姿勢に対して、その事情を理解しつつも批判的である。
論点が複数あって単純な見通しを述べる本ではないが、それでもかなり整理された議論になっている。EUの礼賛でもなくかといって悲観論でもない、EUの強さと弱さを客観的に見極めようと試みた好著だろう。
EUの現状および今後の分析。前半では、ユーロ危機、難民問題、安全保障問題(ウクライナの内戦からフランスでのテロ)、英国のEU離脱を扱っている。後半では、ヨーロッパ統合がそもそも何を克服しようとしてきたのかについて歴史を遡り、現在に至って何を克服できていないのかを探っている。
前半は現状報告だが、ギリシア危機やシリアからの難民問題など、問題があったときには報道されるがその後どうなったのかあまり積極的に伝えられることのない事件についての、EUの対処がわかってためになる。後半はEUの問題の分析。そもそもヨーロッパ統合を「第二次世界大戦の反省」によって評価するのは一面的で、ドイツにある資源(石炭)を復興に用いたかったフランスと、国際社会への復帰を狙ったドイツの思惑の一致という、短期的な利害が統合の端緒であるという。その他、ナショナリズムとヨーロッパ・アイデンティティのずれ、統合が利益となる階級と不利益となる階級の存在、それでも統一通貨ユーロには大きなメリットがあることなどが論じられている。著者は、緊縮策を加盟国に強制するドイツの姿勢に対して、その事情を理解しつつも批判的である。
論点が複数あって単純な見通しを述べる本ではないが、それでもかなり整理された議論になっている。EUの礼賛でもなくかといって悲観論でもない、EUの強さと弱さを客観的に見極めようと試みた好著だろう。