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素晴らしい講義をするには話術以前に充実した内容

2012-07-23 07:14:21 | 読書ノート
マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう:いまを生き延びるための哲学』早川書房, 2010.

  倫理学の入門書。いまさらながら読んでみたが、思いのほか良かった。順に功利主義、リバタリアニズム、カントの義務論、ロールズのリベラリズムと解説してゆくのだが、それらはあまりに価値を単純化しすぎていたり、価値相対主義であったりして、正しさを的確に判断できなくなっているという。そこで後半にアリストテレス的な目的論を称揚し、共通善を見出すことで判断のジレンマを乗り越えてゆくべきだと説く。

  特にカントの解説は面白かった。僕が読んできた本のいくつかで、馬鹿正直で融通の利かない議論としてカント倫理学は批判されていた。このサンデル著では、カント倫理学には抜け道もあって柔軟な面があることも示しつつ、そのメリットを捉えている(最終的には批判の対象になるのだけれども)。本書は2011年に文庫化されているが、そういうわけで、文庫で読める倫理学の入門書としては、加藤尚武の『現代倫理学入門』(講談社学術文庫) よりわかりやすい。

  ハーバードでの講義の様子を撮影した映像をめぐっては、その巧みな司会と話術のほうが話題になっていたと思う。こうして書籍を読んでみると、良い講義になるかどうかは、やっぱり中身の濃い話題が必要条件だという当たり前のことに気づかされる。
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