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貿易と異民族との関係から中国各王朝の社会を読み解く

2019-10-08 08:18:17 | 読書ノート
岡本隆司『世界史とつなげて学ぶ中国全史』東洋経済新報社, 2019.

  タイトル通りの中国通史だが、単なる王朝交替史ではなく、貿易と経済について詳しいのが特徴。といってもビジネスマン向けの一般歴史書であり、微に入り細に穿つという内容ではない。また気候変動の影響についても言及があり、こういう点も最近の歴史書らしい。

  古代から元に至るまで、中国は、シルクロードを通じて国際貿易に開かれた他民族国家だったという描かれ方をしている。遊牧民と農耕民の間には緊張があり、それが中国の歴史を動かしてきた。秦漢の頃は、長江流域よりも遊牧民と対峙する黄河流域のほうが技術革新に優れており、政治的に優位に立っていた。だが、唐宋時代には江南の開発が進んで、人口の割合や経済力において長江流域が北部を凌駕するようになる。石炭を燃料にするというエネルギー革命もあったとのこと。また、シルクロードの商人と関係を結んだモンゴル帝国は、国際貿易のメリットをよく理解していたという。

  中国が変わってしまう大きな転機は明の時代で、モンゴル帝国の否定から経済を軽視するようになった。さらに国内の南北格差を埋めるために、江南地域を冷遇・弾圧した。王朝が商業の発展を嫌ったので、非公式通貨として銀の需要が高まり、日本も含めた世界中から銀が流入した。また、公務員の数が少なすぎて、明の支配は民間の末端までゆきわたらなかった。結果として「行政サービスに期待しない」という中国人のメンタリティが醸成された。こうした「小さな政府」の傾向は清でも同様だった。さらに、貿易が海上を通じるようになって、南北問題が沿岸部と内陸部の格差に変化したという。

  現代になると日本の侵略などから漢民族ナショナリズムが前面に出てきて、中華民国や中華人民共和国の建国を後押しした。しかし、異民族の存在や地域間の利害対立は残ったままだという。

  以上。本書の面白いところは、唐宋元明清の各王朝がどのような社会および経済体制によって支えられていたか、どのような統治を目論んだか、これらについてかいつまんで掴めるところだろう。「小さな政府」が一般庶民にどのような性向を植え付けるのかについても参考になった。なお、著者は中国史では結構知られている学者のようで、著作も多く他の本も読んでみたくなった。
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