浜田宏『その問題、数理モデルが解決します』 ベレ出版, 2018.
データサイエンス事始め。というか、分析の前段階にあたる理論モデル形成についての解説書である。二人の登場人物によるストーリー仕立てにしているところは親しみやすいもの、内容は決してやさしくない。確率やらゲーム理論やらを数式に落とし込む作業と、それを展開してインプリケーションを得るという話が、毎章で展開される。「解説は丁寧なので根気よく読み進められれば理解できる」と言いたいところだが、高校数学の知識がある程度必要であり、私大文系学部卒にはしんどいかなあ。統計学の勉強した後、もっと応用先を知りたい・広げたいという人向けだろう。
呉座勇一『戦国武将、虚像と実像』(角川新書), KADOKAWA, 2022.
戦国武将のイメージ変遷史。取り上げられているのは、明智光秀、斎藤道三、織田信長、豊臣秀吉、石田三成、真田信繫、徳川家康である。織田信長が改革者のイメージで広く語られるようになったのは司馬遼太郎の『国盗り物語』以降のことで、それ以前の時代では「部下の裏切りにあったダメな暴君」としてあまり人気が無かったそう。豊臣秀吉は、江戸時代から昭和戦前期にかけてその立身出世のストーリーのおかげで高い人気を誇ったが、戦後は大陸への侵略者として評価が落ちた。それぞれの人物のイメージを形成した著作として、坂口安吾作や立川文庫などが参照されるが、特に強く影響したのは徳富蘇峰の『近世日本国民史』と上述の司馬遼太郎作であるとのことである。また、われわれが大河ドラマで知ったようなエピソードのほとんどは後代の創作であり、上の戦国武将の真の姿についてはまだよくわからないようだ。面白い。
左巻健男『こんなに変わった理科教科書』(ちくま新書), 筑摩書房, 2022.
理科教科書の変遷史。小中の理科教科書を10年区切りで見てゆくという試みである。1950年代から現在まで7区分あるので、通して読んでみても大きな分水嶺があるわけではなく、マイナーチェンジが重なってゆくという印象である。1960年代には輪軸と滑車の記述があった、2010年代には「カロリー」ではなく「ジュール」を単位として使うようになった、など興味を引く話もある。ただし、教科書内容がなぜ変わったのかについての背景についてはあまり詳しくない。最後の1/3は、教科書内容の話ではなく、教科書検定をめぐる理想の教科書の話になってしまう。もし、書籍全体を使って新しい科学的知識と教科書の分量をめぐる関係者のせめぎ合いの話を詳しく描いていたならば、生々しくてずっと面白い本になったはずだ。まあただ、何を教科書に載せるかは関係者にとってデリケートな問題なのだろうなあ。
津堅信之『日本アニメ史:手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(中公新書), 中央公論, 2022.
副題からわかるように、監督を焦点にしたアニメ史である。作家主義視点を取るため、記述には精粗がある(例えば『オバケのQ太郎』『ドラえもん』以外の藤子不二雄原作作品には言及がない)。一方で、制作会社についてはそこそこ詳しい。スタジオジブリは東映動画の設立当初にあった長編映画路線の末裔だとか、虫プロは短編アート系アニメも作ろうとしたが上手くいかなかったなど。近年ではあまり評価されていないように見えるタツノコプロ(タイムボカンシリーズ!!)についての説明もある。また、映画、テレビ、ビデオ、ストリーミング配信など、媒体の変化に対する目配りがある。全体として、重要情報と著者の評価がバランスよく構成されており、日本のアニメ史を通覧できる書籍として優れているのではないだろうか。特に、最後に索引を設けている点は高く評価したい。こういう教科書的な書籍は「引いて」読みたいからね。
データサイエンス事始め。というか、分析の前段階にあたる理論モデル形成についての解説書である。二人の登場人物によるストーリー仕立てにしているところは親しみやすいもの、内容は決してやさしくない。確率やらゲーム理論やらを数式に落とし込む作業と、それを展開してインプリケーションを得るという話が、毎章で展開される。「解説は丁寧なので根気よく読み進められれば理解できる」と言いたいところだが、高校数学の知識がある程度必要であり、私大文系学部卒にはしんどいかなあ。統計学の勉強した後、もっと応用先を知りたい・広げたいという人向けだろう。
呉座勇一『戦国武将、虚像と実像』(角川新書), KADOKAWA, 2022.
戦国武将のイメージ変遷史。取り上げられているのは、明智光秀、斎藤道三、織田信長、豊臣秀吉、石田三成、真田信繫、徳川家康である。織田信長が改革者のイメージで広く語られるようになったのは司馬遼太郎の『国盗り物語』以降のことで、それ以前の時代では「部下の裏切りにあったダメな暴君」としてあまり人気が無かったそう。豊臣秀吉は、江戸時代から昭和戦前期にかけてその立身出世のストーリーのおかげで高い人気を誇ったが、戦後は大陸への侵略者として評価が落ちた。それぞれの人物のイメージを形成した著作として、坂口安吾作や立川文庫などが参照されるが、特に強く影響したのは徳富蘇峰の『近世日本国民史』と上述の司馬遼太郎作であるとのことである。また、われわれが大河ドラマで知ったようなエピソードのほとんどは後代の創作であり、上の戦国武将の真の姿についてはまだよくわからないようだ。面白い。
左巻健男『こんなに変わった理科教科書』(ちくま新書), 筑摩書房, 2022.
理科教科書の変遷史。小中の理科教科書を10年区切りで見てゆくという試みである。1950年代から現在まで7区分あるので、通して読んでみても大きな分水嶺があるわけではなく、マイナーチェンジが重なってゆくという印象である。1960年代には輪軸と滑車の記述があった、2010年代には「カロリー」ではなく「ジュール」を単位として使うようになった、など興味を引く話もある。ただし、教科書内容がなぜ変わったのかについての背景についてはあまり詳しくない。最後の1/3は、教科書内容の話ではなく、教科書検定をめぐる理想の教科書の話になってしまう。もし、書籍全体を使って新しい科学的知識と教科書の分量をめぐる関係者のせめぎ合いの話を詳しく描いていたならば、生々しくてずっと面白い本になったはずだ。まあただ、何を教科書に載せるかは関係者にとってデリケートな問題なのだろうなあ。
津堅信之『日本アニメ史:手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(中公新書), 中央公論, 2022.
副題からわかるように、監督を焦点にしたアニメ史である。作家主義視点を取るため、記述には精粗がある(例えば『オバケのQ太郎』『ドラえもん』以外の藤子不二雄原作作品には言及がない)。一方で、制作会社についてはそこそこ詳しい。スタジオジブリは東映動画の設立当初にあった長編映画路線の末裔だとか、虫プロは短編アート系アニメも作ろうとしたが上手くいかなかったなど。近年ではあまり評価されていないように見えるタツノコプロ(タイムボカンシリーズ!!)についての説明もある。また、映画、テレビ、ビデオ、ストリーミング配信など、媒体の変化に対する目配りがある。全体として、重要情報と著者の評価がバランスよく構成されており、日本のアニメ史を通覧できる書籍として優れているのではないだろうか。特に、最後に索引を設けている点は高く評価したい。こういう教科書的な書籍は「引いて」読みたいからね。