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短いが研究動向を伝える専門的内容、訳者解説が充実

2016-04-04 09:55:00 | 読書ノート
ポーラ・ステファン『科学の経済学:科学者の「生産性」を決めるものは何か』後藤康雄, 2016.

  研究活動の経済学であり、主に理系分野が対象。翻訳の元になっているのは編集本であるHandbook of the Economics of Innovation, Vol. 1 (North Holland, 2010.)の第五章で、そもそもは1996年のレビュー論文に遡ることができるという。というわけでかなり短い(全体で200頁以下)けれども、情報量豊富な学術書となっている。コホートだとか内生的成長だとか社会学や経済学分野の概念が説明なしに出てくるから、一般の人にはちょっと難しいだろう。

  前半はマートン系の科学社会学でも扱うような領域を対象にしている。科学者の研究動機については、マートンだと地位と名声ということになっていた(うろ覚え)が、著者は「やっぱり金と知的好奇心の二つでしょ」(超訳)とまとめている(もっと正確に言うと「地位と名声」を「金銭」に還元してしまっているように読める)。このほか、スター学者は少なくとも40歳ぐらいまで重要な発見をしている、と。研究者にとって若さは重要だ。後半は経済学らしくなり、研究活動は本当に経済成長に影響しているのか、現状の研究者の者の数は適切か、などと問うている。前者の質問については、暫定的にイエスであるけれども要検証とのこと。後者については、大学がテニュア資格での雇用を十分な数提供できない現状があり、過剰気味ではないかというニュアンスである(とはいえ民間が博士号取得者を吸収しているとのこと)。訳者解説は長くて充実しており、日本の動向について詳しく教えてくれる。

  副題にあるような問いや、オビにある「科学的発見の対価と公共性の適切なバランスは?」「研究者の、効率的な「報酬」体系とは?」という問いに明確に答えるような本ではないので、その点を期待して本書を手にとると肩透かしを食らう。もともとがレビュー論文だから、あくまで研究動向を伝えるものとして読むべきだろう。きちんと位置づけさえ理解すれば、これまでの到達点と今後の課題がわかってためになる本である。
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