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犯罪者うごめくアングラ世界と反民主主義思想を並置

2019-11-01 08:16:56 | 読書ノート
木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド:社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』イースト・プレス, 2019.

  インターネットの闇世界の解説書。ただし、闇世界だからタイトルに「ダーク」と付けられたわけではないらしく、もともとダークウェブとは接続に専用のブラウザソフトが必要という手間があるだけの一応は開かれたインターネット領域のことを意味するらしい。著者は1988年生まれのブロガーということだが、ルポルタージュ的な書籍だと考えるといいだろう。

  特殊なブラウザを使い、接続にあたってとことん匿名化する。これによって、ダークウェブの利用者は何をするのか。それは麻薬の売買、児童ポルノ、殺人依頼である。お金はビットコインで支払う。詐欺も横行している。というわけで結局、技術的な意味だけでなくコンテンツ的にもダークな領域になってしまっているようだ。あるいは著者がそのような特殊領域のみ記事化したのだろうか。以上のような話が前半である。

  後半は思想の話で、自由を重視するあまり反民主主義・反フェミニズムに傾く人々が採りあげられる。個人的には「ポストモダン思想のなれの果てがこれか」という感慨で心揺さぶられるところはあった。けれども、それとダークウェブと結びつけるのはどうなのだろう。危険思想とはいえ犯罪集団や非モテ論の延長で捉えられていいものだろうか。この構成は、扱っている思想をことさら暗く後ろめたく描いてみせるもので公正さに欠ける気がするなあ。

  というわけでニック・ランドという思想家にとっては不幸な紹介のされ方となっている気がする(よく知らないので、こういう扱いが妥当だという可能性はもちろんある)。また、最近のニュースで、中国のようなネット検閲のある国家の住民に対して、BBCがダークウェブ経由で接続できるサイトを立ち上げたという記事があった1)。そういう利用の仕方については触れられていない。

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1) Gigazine / BBCがダークウェブ上にTor経由でしかアクセスできないミラーサイトを開設 (2019.10.25)
  https://gigazine.net/news/20191025-bbc-dark-web-tor-mirror/
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