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マーケットデザイン適用の「戒め」かつ「ただし書き」本として

2019-11-05 08:12:06 | 読書ノート
川越敏司『マーケット・デザイン:オークションとマッチングの経済学』講談社選書メチエ, 講談社, 2015.

  オークションとマッチングを効率的な市場に変えることを考える研究領域「マーケット・デザイン」についての入門書。この領域の定番と言えば坂井豊貴の『マーケットデザイン入門:オークションとマッチングの経済学』(ミネルヴァ書房, 2010.)があるけれども、数学的証明が中心の内容で紹介されたアルゴリズムがどう応用されているのかがよくわからなかった。本書はそれを補う読み物的な内容である。

  前半1/3以外が経済学とゲーム理論、中盤1/3がオークション、後半1/3がマッチングという構成である。個人的には、二位価格オークションが理論的には効率的だという知識はすでにあった。だが、なぜ実際にはそれほど普及していないのか疑問に思っていた。本書によれば、実際のオークションを使って調査・実験したところ、必ずしも理論通りの結果とならないことがあるらしい。参加者数や談合などの要素も影響し、オークションする側はそうした点も考慮しなければならないとのこと。また、徐々に日本でも採用されるようになっている受入保留アルゴリズムについても、プロポーズする側される側の違いがあり、必ずしもすべての参加者にとって望ましい結果を保証する方法ではないという。このように、各種手法についての「ただし書き」のところで知見が多い本である。

  以上のように、この領域の新方式の導入を考えている組織ならば、付随する注意事項がわかって役に立つだろう。以前所属した大学の英文科のゼミ選択では「受入保留アルゴリズム:DAA」を使っていた(ただし処理は人力でやっている)。教員志望の学生が多くいる学科であるため、DAAが将来日本の各地で学校選択に導入されたときのことを考え、学生たちににこれを知っておいてもらおう、という学科の意図だった。しかし本書を読むと、そういう将来はなかなか来ないかも、という気がしてきたな。
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