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専門家による社会調査の実践的ノウハウ

2017-03-22 14:09:22 | 読書ノート
岸政彦, 石岡丈昇, 丸山里美『質的社会調査の方法:他者の合理性の理解社会学』有斐閣, 2016.

  社会調査法。方法論的なところから、心構え、細かいノウハウまで、実例を交えながらの記述である。「社会学における質的調査とは」という話から始まって、フィールドワーク、参与観察、生活史の調査の仕方を解説する。岸は戦後の沖縄からの集団就職者の生活史調査の経験を、石岡はマニラの貧困層のボクサーの参与観察の経験を、丸山は女性ホームレスのフィールドワークの経験をネタにしている。

  類書を読んだことがないので比較はできないが、わりと心構え的な話が多いのが特徴的なのではないだろうか。例えば3章では、参与観察で記憶(=記録)しておくべきことは、参与観察中の「気分」だとされる。マニラで貧しいボクサーたちと暮らしていたときの空気感の記憶は、まったく環境の異なる日本での大学教員生活に戻っていざ論文執筆をしようとする際の重要な参照点となったという。このように、客観的とは言えないが、執筆者の経験からくる実践的なアドバイスがところどころちりばめられている点がポイント。依頼の仕方や、人間関係の持ち方、ICレコーダーの置き方、インタビュー中の相槌の入れ方、インタビューのまとめ方など、細ごまとしたところについても説明があり、本書を読めばひととおり社会調査ができそうだという気にさせてくれる(実際にうまくできるかどうかは話が別)。難しすぎること──例えば「二つの対立するグループをそれぞれ調査するときには中立的に振る舞え」など──を無理だと述べているところもよい。

  というわけで内容的に初学者にもフレンドリーで、また読んでいて面白い。人と話すのが苦手なので僕が今後質的調査をすることはないだろうけれども、質的調査の意義ということについてはよく理解できた。本書によれば、それは量的な検証に先行して仮説設定や問題提起を行う方法だということだ。
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