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因果関係をどう検証したらよいかについて簡単に説明

2017-03-01 22:37:00 | 読書ノート
中室牧子, 津川友介『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』ダイヤモンド社, 2017.


  統計分析のための実験または調査デザインについて解説する入門書。正確には、統計的仮説検定を実施するための「統制群」をどうやって作るかについての本である。もっと分かりやすく言えば、「比較用のデータの集め方」である。検定自体の説明はないので、本書だけで分析手法は完結しないが、潔い論点の絞り方だという評価もできる。

  相関関係と因果関係の違いから説き起こして、因果関係を検証できる実験法・調査法について解説する。理想としては「ランダム化比較試験」が実施できればよい。だが、それができない場合はどうするか。次善の策として「自然実験」「差の差分析」「操作変数法」「回帰不連続デザイン」「マッチング法」「回帰分析」が挙げられて、解説されている。それぞれの事例も興味深い──学力の高い高校に自分の子どもを行かせたいという親の期待とは裏腹に「勉強のできる友人に囲まれて高校生活を送っても、子どもの学力には影響がない」など。分析手法の詳しい説明は置いておいて、とにかく手法を通覧したいという向きには良い本である。

  なお、タイトルにあるような「経済学」の本ではないことは強調しておきたい。統計を使う文系領域で、世間の期待に冷水を浴びせるような実証結果を示すのが「経済学」だというイメージでもあるのだろうか。代わりに「社会学」と銘打っても捉えきれない内容だが、正確を期して「調査あるいは研究法」とという語を加えたら本書は売れないだろう。タイトルは苦心の産物なのだろうな。

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