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文化への財政支援の帰結

2008-06-07 11:19:18 | 読書ノート
ハンス・アビング『金と芸術:なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳, グラムブックス, 2007.

 著者は、ヨーロッパを例に、政府の財政支援が多くの若者を芸術活動に引き寄せ、結果的に経済的に貧しくなるキャリアを選択させていると主張する。

 芸術への財政支援は、民間では需要されない量の芸術の生産活動を可能にし、さらに政府による権威を与える。芸術は、参加がしやすく、また社会的な威信も得られるという魅力的な人生の選択となっている。

 だが、成功するのは一握りの芸術家だけで、大半の芸術家は芸術以外の道で生活を成り立たせなければならない。二流以下の芸術家への支援は、長期的な芸術活動を可能にするというメリットがある一方で、芸術以外での職業のキャリア形成を阻害し、成功しなかった場合の人生を不幸にする。また、他の生産活動に回るべき労働力が、芸術分野に集中するのことは社会的に損害を与えるとも。

 以上が僕の見たポイント。図書館・情報学屋としては、広く「文化を財政的に支援することの帰結」として読んだ。

 ただ、日本の映画界のように、公的に支援されてないのに多くの人材が参入し、そして貧乏になっている世界もある。そういうわけで財政支援そのものよりも、社会的威信のほうが重要な契機なのではないかと思う1)。また、その威信を与える力は政府だけが握っているわけでもないようだ。

 しかし、金ではないとしたらなんのために威信を獲得しようとするのか? 進化心理学は「モテるため」と言ってるけど2)

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1) ただし、経済的支援が無いことは、アーティストとしてのキャリアを早く諦めさせ、若いうちに別の職業に就くよう促す効果があることは重要なところ。
2) ジェフリー・F.ミラー『恋人選びの心:性淘汰と人間性の進化』長谷川眞理子訳, 岩波書店, 2002.
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