少女七竈と七人の可愛そうな大人(角川文庫)
★★★☆:70~75点
終盤までは桜庭一樹ワールドともいうべき不思議な不思議な物語の味わいに唸り、それを堪能していたのですが、7話のあとの「ゴージャス」(かつての異色アイドル・乃木坂れなの語り)には七竈が出てこないし、しかも唐突に終わってしまったので、何か拍子抜けしてしまいました。元々この文庫本は2006年に角川書店から刊行された単行本に加筆したものとのことで、「ゴージャス」は野生時代07年2月号掲載のものに加筆となっていました。つまり本来は(?)第7話で終わりだったということみたいで、「ゴージャス」に違和感を感じたのも当然かもしれませんね。最後の方まで80点ペースはキープしていると感じていたのが、結局70~75点までダウンしてしまい、それが惜しまれます。「ゴージャス」は必要だったのですかねえ。「ゴージャス」の章はあるとしても、もうちょっと違った書き方をして欲しかったなあ。
********************* 内容(「BOOK」データベースより) *********************
「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」川村七竃は、群がる男達を軽蔑し、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友として孤高の青春を送っていた。だが、可愛そうな大人たちは彼女を放っておいてくれない。実父を名乗る東堂、芸能マネージャーの梅木、そして出奔を繰り返す母の優奈―誰もが七竃に、抱えきれない何かを置いてゆく。そんな中、雪風と七竃の間柄にも変化が―雪の街旭川を舞台に繰り広げられる、痛切でやさしい愛の物語。
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七竈と雪風。とてもよく似た”かんばせ”の2人は実は異母きょうだいであったようで・・・
七竈と雪風の2人に共通のしかも唯一の(?)趣味が鉄道模型。その静けさがある意味で心地よかったです。七竈と雪風が離ればなれになることを悲しむ普通の女の子・緒方みすず。彼女は雪風を好いていたのだが、七竈にまとわりついているうちに七竈と雪風の不思議な関係と世界に引き込まれてしまったのだろう。面白い役回りでした。
七竈の古風で丁寧な話し方も妙に印象的。”かんばせ”という言葉も耳から離れません。
P27の挿し絵(セーラー服を着て?鉄道模型の車両を胸に抱いて座る細身で髪の長い美少女)が実に印象的でした。そして終盤、東京の大学に進学するために上京する七竈(雪風は北大に合格)。その前に髪を切って短くすると、何と鏡の中に雪風がいた。
まるで少年のような短い髪。青白い肌。
切れ長の瞳、悲しげな薄ら寒いかんばせ。
このシーンと挿し絵も心に残りますね。
「赤朽葉家の伝説」 「私の男」でひっくりかえるほどの衝撃を受けた桜庭一樹作品。本作の点数はやや低めにしましたが、独特な空気が素晴らしかったです。