設計の「思想」:補足・・・・コンコース、ロビー...いろんな用語

2008-07-18 10:25:23 | 論評
京都駅の話で「コンコース」について触れた。その話を書きながら、ある建物のことを思い出していた。
それは、新宿・淀橋浄水場跡を市街化する計画に際して、最初に建てられた高層ホテルである。1970年頃のことだ。
建物を見がてら、そのホテルの「ロビー」で人と会うことにした。

それにしても、あの「浄水場跡地開発地区」へ、新宿駅から地上を歩いてゆくのはきわめて難儀。目標が目の前に見えていても、そこへ向かって歩いてゆけばよい、というわけにゆかないのだ。
地上を歩いてゆくと、行く手は遮られる。まっすぐ向かうには、一階分下へ降りなければならない。そこから先、東西方向の道は地階レベル、南北方向は地上レベルという二段織りになっているからだ。
新宿駅を乗降する人の存在を考えたならば、駅からこの地へ向う東西の道を地上レベルに置くのがあたりまえの感覚のように私には思える。

それはさておき、そのホテルの「ロビー」は、私の「ロビー」観をくつがえすものだった。私には、それは、どう見ても「通路」、よく言って「コンコース」以外の何ものでもなかったのだ。

「コンコース」というのは、一般には駅で使われることが多いが、もちろん駅と限らなくてもよい。
辞書的な解説を加えれば、「コンコース」:con-course とは、人や川などが合流することを指すことから、道路などが集中する箇所、広場、駅や空港などの中央広場・ホールのことを言う。建築的には、いろいろな方向へ向う人の流れをさばくための空間、と言えばよいだろう。

   註 「ホール」:hall は、単に「大きな空間」という形体を示す語で、
      「〇〇〇用のホール」(たとえば「コンサートホール」)のように
      使用目的を示す語を付して使う必要があるようだ。

では、「ロビー」とは?
辞書的に言えば、「ロビー」:lob-by とは、建物の玄関:出入口近くにあって、誰でも自由に出入りできる休憩・談話用の広間:玄関広間(foyer)、休憩室・応接間など。
なお、foyer とは、休憩室、入口の間などの意でlobbyに近い意味。語源はフランス語の「暖炉」にあるらしい。普通、日本語では「ホワイエ」と書くことが多い。もっともこのカタカナ語は辞書にはない。

   註 「玄関」:仏教の用語。
      玄妙な(道理や技芸が幽玄で微妙なこと)道に入る関門。
      ⇒禅寺の方丈に入る門。寺院の表向き。武家の居宅で
      正面の式台のある所。⇒一般に、建物の正面に設けた出入口。
                               [広辞苑]
     
しかし、私が見たそのホテルの「ロビー」は、単なる「幅広の通路」で「コンコース」とも言い難かった。なぜなら、人の流れをさばいているわけではなく、さながら駅の「地下通路」のようだったのだ。
私同様に待ち合わせに使っている人が多くいたが、その人たちは、「人の流れ」を避けるため、所在なさげに壁際に立っている。そのあたりにはソファ・テーブルが置かれているが、そこに座ると、それはまさに駅のホームのベンチに座っているようなもの。目の前を人の流れが渦巻くから、落ち着かないのである。

通常、このようなソファ・テーブルの置かれる場所は「ラウンジ」:loungeと呼ばれることが多いのだが、lounge という動詞は「ぶらぶらする、・・・にもたれかかる、ゆったり横になる」というような意味。それが名詞に転じると、休憩室、休憩コーナー、待合室・・・といったような場所を指す語になる。
したがって、ぶらぶらできなかったり、ゆったりとした気分になれなければ、たとえソファやテーブルが置いてあっても、「ラウンジ」ではない。私がそのホテルのそれを駅のホームのベンチと思ったのも、そのせいだ。


「コンコース」「ロビー」・・・・といった場所・空間を示す名詞は、それぞれの語の本来の意味で明らかなように、「そこでの人の動き方:様態に相応した空間」を指していたはずなのだが、いまや、「内容を伴わない名前」だけが勝手に幅をきかしていることの方が多い。「ロビー」だとか「ラウンジ」だとか名をつければ、「ロビー」や「ラウンジ」ができたかのように錯覚してしまうらしい。
つまり、これらの語の使い方は、かなりいい加減、名が体を表していない場合が多いということ。おまけに最近は「アトリウム」などという語も使われる。

   註 「アトリウム」:atrium は、ローマの時代の建物様式。
      中央部に設けられる中庭様の空間。吹抜けとなることが多い。
      これをいわば核として全体の空間が構成されていた。

今は、いつの間にか、吹抜け空間なら何でもアトリウムと呼ぶらしい。建築家には新しがり屋が多いからだろう。


私に、「ホワイエ」「ロビー」「ラウンジ」・・・といった語の意味する空間のイメージを、的確に伝えてくれた建物がある。それぞれの「空間の名」の意味を的確に教えてくれた建物と言ってもよい。
それは、かつて日比谷にあった「帝国ホテル」の建物、そのつくりである。次回、紹介したいと思う。

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